約 525,945 件
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/290.html
遊乃堂奇譚八話?「冬の遊園地 その前」 hbx5FDrO ここは海鳴町の片隅にある古びた佇まいの古書店『遊乃堂』―― いつも静かな古書店はやはり今朝も穏やかでゆったりと時が流れていた。 開店前の遊乃堂の扉の前に佇む一人の少女。 彼女、ギンガ・ナカジマは、 その目の前にある古本屋の古い木の扉がまるで鋼鉄で出来た開かずの門のように感じられ、 しばしの間、呆然とその場に立ちつくしていた。 ……あるとき管理局でスバルに紹介された物静かで優しい“先生”。 その人が彼、ユーノ司書長“ユーノさん”だった。 以前からスバルに“先生”についてはいろいろと聞かされていたからどんな人かはだいたい知っていた。 ことあるごとにスバルがとっても楽しそうに、そして目を輝かせて話していた人のことだから。 だから初めてあったときも前から知っていたような、とても親しい人のような気がしていた。 そしていつの間にか私もユーノさんのことをいつも考えるようになっていた。 でも、私にはスバルのように純粋に彼を慕う一途な気持ちもなくて―― スバルは私が母さんからボロボロになるまでしてようやく覚えたシューティングアーツを私から、 しかも私よりも短い期間で身につけてしまった、一見不器用そうに見えるけど天才的な才能の持ち主。 なのはさんのような彼との間に感じられるような時によって培われた見えない絆もなくて―― なのはさんはかつてユーノさんといっしょに大事件を解決した時空管理局の有名な“エースオブエース”。 フェイトさんのような美しさも彼に対する絶対的な信頼感もなくて―― そしてフェイトさんもなのはさんと同じ、ユーノさんと幼なじみで超がつくエリート級の執務官。 そんな普通でない彼女らに支えられて、彼女らを支えている、そんな彼らの姿が素敵でうらやましかった。 だから何もない、普通の私は遠くから彼と彼女達を見ていられればそれでよかった。 “スバルという名の元気のいい少女の姉”として彼とはほどほどの距離にいられればそれでよかった。 ……それでよかったはずなのに。 けれどユーノさんが時空管理局からいなくなったときにぽっかりと胸に大きな穴が開いてしまったような そんな悲しくてとても落ち着かない気持ちにおそわれてしまった。 何か複雑な事情があって今まで親しかったはずの彼女らは誰もユーノさんには会いに行けないようだった。 なのはさんですら会いに行かない。 あれだけ親しげにしていたのに。それとも遠くにいても大丈夫だということなのだろうか? フェイトさんもしばらくは躊躇していて 今でも何かに遠慮して隠れるようにごくたまに会いに行ってるらしい。 スバルはちょっと事情が違うようで仕事が忙しいから『すぐにはいけないよ』と電話口で泣いていた。 『お姉ちゃん、だからお願い……』 スバルの“お願い”に後押しされて、私はユーノさんの元へ訪ねることに決めた。 私はなのはさん達と違って、何かに監視されてはいないらしい。 私がなのはさん達の代わりになれるとは思えないけど、支えられるかどうかなんてわからないけど。 こうして、私は時折この店に顔を出すようになった。 ここでアインスに出会って、アリサさんやすずかさんに出会って、そしてみんなと友達になれた。 ユーノさんとも以前より近しい存在になれたような気がした。 でも、ここではアインス達とアルフがユーノさんを支えていた。 『今度は私が彼を支える』そんな私の考えは傲慢だったのかも知れない。 そうだ、そうに違いない。 何もない普通の私に何かが出来るなんてそんなことあるわけはない。 でも、私に出来ることなんてそんなにあるわけじゃない。だって何もない私なんだから。 だからこそ自分に出来ることをするだけだ。 たとえ彼にとって“スバルという名の元気のいい少女の姉”という存在でしかなかったとしても。 アインスやアリサ達の友達でちょっと明るい少女でしかなかったとしても。 私、ギンガ・ナカジマはユーノ・スクライアのことがとても好きなのだから。 それでいいじゃない。私は今、私にできることをするだけだ。 それに今、私は前よりもユーノさんの近くにいられてとても幸せなのだから。 ギンガは一つ大きく深呼吸をしてからそのとてつもなく重く思えた扉を勢いよく開けて叫んだ。 「ユーノさん、アインス、遊びに行くわよ!」 そうして素早く二人の姿を探し出したギンガは二人の腕をガッシリとつかんだ。 何かがギンガの元から逃げ出してしまうのを恐れているかのように。 30スレ SS アルフ ギンガ・ナカジマ ユーノ・スクライア リインフォース・アインス
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2726.html
ミッドチルダ北部ベルカ自治領。 ノーヴェとゼロが激戦を行った岩場から、そう距離はない森の中。ギンガ・ ナカジマにルーテシア、そしてゼスト・グランガイツとアギトを加えた一行で ある。使い魔も数に数えるなら、ルーテシアの忠実なる僕、ガリューもいる。 「ここは……何かの史跡か?」 アギトが周囲を見回しながら、物珍しそうに呟いた。 「史跡と言うより、遺跡だろうな。古代ベルカの匂いの残る場所、とでも言う べきだろう」 聖王教会は次元世界最大の信徒数を誇る宗教、『聖王教』の総本山である。 宗教権力は、いつの時代、どんな場所においても絶大な力を発揮するに違わず、 旧ベルカ自治領を中心に存在する組織は、管理局最高評議会に匹敵する権力と 発言権を持っているとされる。でなければ、ミッドチルダにあって古代国家の 自治領など認められるわけがない。 こうした宗教権力との結びつきに対し、地上本部のレジアス中将などは批判 的であり、否定的だ。彼が本局から疎まれるのには、そうした利権屋に近い屑 どものせいでもある。 「教会と管理局の癒着は、百年やそこらで語れる物じゃない。大司教や枢機卿、 教皇たちは三提督に並ぶ位置にいるとされ、そもそも局内及び管理世界におけ る信者の数は多い……真に恐ろしいのは、信仰深い狂信者。怖い話ね」 蔑むような口調で喋りながら、ギンガは遺跡内を探索している。ベルカ自治 領には、このような場所が多い。本来なら、考古学者の類などが旧文明の遺産 を解き明かそうと発掘や採掘でもするのだろうが、教会はそれを拒み続けてい る。彼らにとって、この森は信仰対象である聖王の庭であり、ベルカ自治領そ れ自体が聖王の持ち物なのだという。国は王に帰するもの、という考えは理解 できなくもないが、滅び去った国と王に何の価値があるというのか。 「……ここかな、ドクターの言っていた入り口は。ノーヴェの方じゃなくて、 こっちが当たりだったみたい」 岩と岩の隙間に、入り口のような物が見える。ギンガは左手で、ゼストの背 丈ほどもある岩片を掴むと、片手でそれを放り投げた。思わずアギトが驚きの あまり目を点にしてしまったほどで、ガリューも無言ながら一歩、後ろに下が ったほどだ。 「凄い力」 ポツリと、ギンガの怪力を見せつけられたルーテシアが呟いた。無表情なが らも驚いてはいるようだ。ゼストもまた、既にギンガが自分では止められない ほどの実力者へと変貌していることを実感せざるを得なかった。 「さぁ、入りましょうか」 言って、遺跡内に足を踏み入れるギンガだが、 「……へぇ」 その前に、四つ足の脚部を持つガジェットが、這い上がるように現れた。 「自動防衛システムって分け、面白いじゃない」 ギンガは、左腕の拳を強く握りしめた。 第18話「ナンバーズ分裂」 ミッドチルダ中央区、先端技術医療センター。 ゼロは、久方ぶりにここを訪れていた。以前来たときは、ギンガが一緒だっ た。彼の身体の具合を心配した彼女が、戦闘機人として世話になっていたこの 施設をゼロに紹介したのだ。 しかし、そのギンガは今、ゼロの隣にはいない。 「良かったね、ノーヴェ。チンクの側にいられて」 ガラス越しに見える、集中治療室の光景。セインは、機能停止したまま治療 を受けている姉妹の姿を見ている。 重傷患者であったチンクは勿論、新たにノーヴェまでもがここに担ぎ込まれ た。センターにあって、戦闘機人向けの設備はそれほど多いわけではない。必 然的に、ノーヴェはチンクと同じ場所に収容されることとなった。 「一時はどうなるかと思ったけど……本当に良かった」 呟くセインに、傍らのゼロは何も言えないでいた。ノーヴェが傷つき倒れ、 ここへ収容される原因を作ったのは他でもない、彼自身だ。命だけは助かった と言っても、それだってゼロが何かした分けじゃない。彼が戦った結果として、 偶然ノーヴェが生きていたという事実がくっついてきただけだ。 セインはゼロを責めなかったし、今後もその気はなかった。だが、ゼロとし ては責任の一つも感じざるを得ない状況である。聞けば、ノーヴェはセインを 含めて先にゼロに倒された姉妹らと特に仲が良く、恐らくそうした事情が彼女 を追いつめ、後のない戦いを挑ませたのではないだろうか? 形振り構わぬ捨て身の攻撃、そこに付け込んだスカリエッティ。けど、ノー ヴェを実際に倒したのはゼロなのだ。 ゼロはセインには声を掛けず、黙って部屋を出た。逃げたといわれても、否 定はしないし、出来るわけがない。 「ゼロ……大丈夫?」 部屋から出てきたゼロに、フェイトが心配そうな声を掛けた。彼女はとある 任務があって、ゼロとセインとは別ルートでここを訪れていたのだ。 「心配ない」 簡潔に答えるが、明らかに無理をしているとフェイトは感じた。だが、フェ イトにしたことろで容易に口を挟める問題ではないのだ。気にする必要はない、 などと彼女が言えるわけもないし、例えセインがそのように言ったところでゼ ロは気にするだろう。 「マリエル技士官が、あなたに用があるって」 それは、以前ゼロの身体のメンテナンスを担当した女性の名前である。ゼロ は無言で、彼女の待つ部屋に向かって歩き出す。フェイトもそれに続くが、ふ とゼロは足を止めて立ち止まった。 「ゼロ?」 怪訝そうな声を出すフェイトに、ゼロは背を向けたままこう言った。 「心配を掛けて、済まない」 時空管理局本局は、先日に襲撃事件によって敵がナンバーズと呼ばれる戦闘 機人を奪還する意思があることを、勘違いではあるが、知ることになった。単 機での潜入は馬鹿げているの一言で済ませられるが、これが大軍ならばどうな るか? しかも上層部は、未だに機能回復せず満足な尋問も行えないナンバーズを持 て余しており、厄介なお荷物、腹に爆弾を抱え込んでいるなどと揶揄される始 末だ。それに対し高官たちは会議を重ね、一旦捕獲したナンバーズを別の場所 に極秘裏に移すことにした。機能を回復させた後、尋問、または拷問を行い情 報を得る。 そして任務を与えられたクロノ提督は義妹のフェイトに連絡を取って、彼女 に二体のナンバーズを先端技術医療センターまで護送させたのだ。 「一応、八番の子がそろそろ目を覚ましそうだよ。見た目からして男の子かと 思ったんだけど、引っぺがしてみると女の子だったりしたよ」 コーヒーを飲みながら、マリエルは何とも微妙な話を笑い話にしている。お 義理でフェイトは笑ってやるものの、ゼロは無表情を貫いている。笑わないゼ ロに、やれやれとマリエルは呆れて、話題を変える。 「ところで、リインは最近元気? 仲良くしてる?」 何故かフェイトではなく、ゼロに尋ねる。 「主を失って、気落ちはしているようだが」 底抜けに明るいリインでさえ、はやてが倒れた、倒されたという事実は堪え たようだ。しかもそれが、懇意の仲とも言えたギンガによってとなれば、尚更 だろう。 「そっか……良かったら慰めてあげてよ。あれで、寂しがり屋だからさ」 「善処する」 嫌だとか、無理だとか、そういうことは言わない。不向きなことだとは、思 っているが。 「宜しい。リインとはね、仲良くしておいた方が良いよ。あなたとリインが協 力し合えば、ちょっと面白いことが出来ると思うから」 意味ありげな笑みを浮かべるマリエルに、ゼロが怪訝そうな、フェイトがキ ョトンとした視線を向けるも、彼女はそれを交わして、起ち上がると隅にある 比較的大きいサイズの棚へと向かう。 「えっとねぇ、ここにしまってるんだけど」 鍵束から鍵を選び、いくつもの錠を解錠していく。研究資材か、発明品でも 入れているのだろうか? 厳重な管理を見るに、ただの棚というわけではなさ そうだ。 「魔法の使ったセキュリティは、それを突破する物がすぐに編み出されてイタ チごっこ状態。こんな昔ながら鍵の方が、却って良かったりするんだよね」 解錠の魔法を使えても、ピッキング技術を持ち合わせていない盗人や泥棒の 類は五万といる。これも魔法社会の、あるいは良い意味での弊害なのではない かとマリエルは考えていた。 「さて、と。これだこれ」 大きな合金製の、長大なケースを取り出すマリエル。テーブルまで戻ってく ると、それをゼロとフェイトの前に置いた。 「フェイトさんに見せて良いのかは判らないけど……」 特殊な形状をした鍵を差し込み、ケースを開ける。現れる中身に、フェイト はそれが何であるか判らなかったが、ゼロはすぐに判った。 「完成していたのか」 ケースの中に入っていたのは、金属製で出来ている二種類の……何であろう か? フェイトはすぐに答えを出せないでいた。 一つは、小型の円盤状をしており円形の盾であろうか? それにしては少々 小さい気がする。もう一つは、これは二つの棒状の物が一組となっており、形 としては警邏が持っているようなトンファーによく似ている。 「ゼロ、これは?」 尋ねるフェイトだが、口を開いたのはゼロではなくマリエルだった。 「円盤状の盾がシールドブーメラン、こっちのトンファーみたいのがリコイル ロッド。どちらもゼロに頼まれて作った武器」 武器という単語に、フェイトが驚いてゼロを見た。武器はロッドの一つを手 に取ると、物は試しと握り込む。材質は金属だが、ゼロの知らないこの世界の 物。後で知るのだが、デバイスなどに使われる軽くて硬い特殊素材なのだとい う。 「エネルギーは、あなたが直接供給を行えるようになってるから、あなたが倒 れない限りはエネルギー切れを起こす心配はない。威力の方は実戦テストをし てないから何とも言えないけどね」 それでもこの短期間で、異世界の武器を完成させたのはマリエルの優秀さを 示す証拠だろう。 「感謝する」 短く礼を述べるゼロに対し、マリエルは満足そうに頷いてそれ以上は何も求 めなかった。良い研究と開発が出来た、彼女にとってはそれで十分なのだ。ス カリエッティといい、研究者の類が如何に救われがたい生き物かが良く分かる が、それを見ていたフェイトはそんなことを言うつもりはない。 「ゼロ、あなたはまだ戦うつもりなの?」 起ち上がって、フェイトはゼロに問いただした。彼女は、もうゼロが戦うべ きでは、戦い続けるべきではないと考えていた。彼が不幸を呼び込むとか、そ んな下らない妄言を気にしているのではない。理由は、他にある。 「あなたは、傷ついている。戦う度に、ずっと傷ついてきている」 それは、負傷や損傷という意味だけではない。ノーヴェの件も含めた、内面 的なもの。単純に、敵を倒してそれで終わりという状況ではなくなっているの だ。ガジェットのような稚拙な知能しか持たない兵器ならまだしも、外見は人 間のそれと変わらぬ、少女の姿をした戦士たち。ゼロは無表情に、無感情にこ れを倒してきたように思えるが、そんなわけはない。 セインをはじめ、姉妹の繋がりを知った今となってはその剣先は鈍っている。 鈍っているはずだ。 「スカリエッティのことは、私たちに任せて。異世界から来たあなたが、これ 以上私たちの世界の問題を背負い込む事なんてない!」 フェイトとしてはゼロのためを思って、戦いながら精神をすり減らしている ように見えた彼を気遣っていったのだが、 「オレは自分の意思で、スカリエッティと戦う道を選んだ。一度決めたことを、 覆す気はない」 フェイトの気遣いには謝辞をするが、ゼロは意志を曲げようとはしなかった。 「……オレは、オレはどんな綺麗事も言うつもりはない。結局、オレは戦って 敵を倒すことしかできない。アイツの大切な妹だと知っていたのに、オレは戦 って倒すことしかできなかったんだ」 ここまでゼロが自己に否定的な発言をするとは、フェイトは思っても見なか った。故に、フェイトはそれ以上、何も言えなくなってしまう。 そんな二人のやり取りを、コーヒーを啜りながら眺めていたマリエルだが、 通信端末の緊急ランプが点滅をしたので起動させた。 「なに? 敵がここに襲撃でもしてきた?」 緊迫感のない声で言う物だから、ゼロとフェイトが思わずマリエルの方を見 た。マリエルは下士官から何やら報告を受けているようだが、あまり自分には 関係のない内容なのか、それほど驚いてはいなかった。通信を終えると、見守 る二人の方に顔を向けた。 「痴話喧嘩はそれぐらいにした方が良いよ」 「なっ、私たちは別にそんなんじゃ」 赤面して抗議の声を上げるフェイトに、マリエルは無視して言葉を続けた。 「臨海第8空港、そこにガジェットの大部隊が侵攻したって」 言って、マリエルはコーヒーを啜ろうとするが、カップは既に空っぽだった。 ミッドチルダ北部にある臨海第8空港は、現在から遡って四年ほど前に起き た空港大火災によって閉鎖された場所である。 空の要路として重要視されていた空港であるにもかかわらず、火災発生時の 管理局地上本部の対応は鈍足だった。言い訳が許されるなら、ベルカ自治領近 くにあって教会の出資金によって作られた空港であるから、対処するにも管理 局と教会、どちらがするべきなのかという指示系統の乱れが生じた。 しかし、聖王教会はすぐに動こうとはせず、また明確に管理局対して対処の 依頼もしなかったため後日地上本部から非難されるのだが、「対応を謝った地 上本部の方こそ悪い」という一方的な主張を続ける教会と、被災者の救助にの み心がけた教会騎士団の存在ばかりが持てはやされ、地上本部の主張は逆に批 判される結果となった ちなみに、この事件を切欠に八神はやては機動六課の構想を練りはじめるの だが、彼女は聖王教会にすり寄る存在だったため、地上本部を非難する側に回 っていたという。 「レリックが絡んだ大災害……あのまま放棄されると思ってたのに」 六課の仮隊舎にて、なのはが複雑そうな表情をしながら口を開いた。 臨海第8空港の跡地とも言う場所は、長く整備区画として放置されてきた。 それが最近になって、やはり聖王教会の出資によって空港として再建する計画 が進められていたらしい。三ヶ月ほど前に瓦礫を撤去し、新たな空港施設を作 る。恐らく、何らかの利権があって、利権屋が働きかけているのだとは思うが、 なのははそういった部類のことをなるべく気にしないようにしている。 面倒くさいからだ。 「でも、さすがに今回は地上本部に任せても良いのではないですか?」 教会騎士カリムによる出動要請に、なのはは常識論で対応した。完成して、 利用客も多い空港に敵が攻めてきた、というのなら一人でも多くの魔導師が行 くべきだと思うが、今回は建設中の段階だ。工事の人間を非難させる程度のこ とは陸士隊一個中隊で済むし、何なら施設を放棄した上で戦力を結集、反撃に 出るという手だってあるはずだ。 『あそこは教会が多大な出資金を投じています。その出資金は、全て信者の寄 付によって成り立つ物、無駄には出来ません。それに……』 「それに?」 宗教権力者の浅ましい論調にウンザリするなのはだが、続けて出た言葉に顔 色を変えることになる。 『今日、あそこの建設現場には聖王教会系列の小学校から、多数の児童が社会 科見学に行っているそうなんです。児童の安全も気がかりですし』 「ど、どうしてそれを早く言わないんですか!」 なのはは思わず大声を上げた。全く、金の話などよりも、そっちを先にする べきではないのか。 カリムに対して呆れかえる時間も、こうなって惜しい。なのはは要請を受諾 することだけを告げると、フェイトに緊急連絡を行って帰還を諭し、現状出撃 できる全ての隊員を集めた。 ティアナ、キャロ、シグナム、ヴィータ。たった4人だ。しかも、守護騎士に 至ってはデバイスが修理中ということもあって、戦力としてはろくな期待をし ない方が良い。 「……スバルは?」 なのははティアナの方を見るが、彼女は黙って首を横に振った。スバル・ナ カジマは、未だに姉の裏切りと、その姉による父親殺しから立ち直れないでい た。 「わかった、スバル抜きで行こう。みんな、すぐに出撃準備を。教会が移動の ヘリは用意してくれるって言うから」 使えない人間に、いつまでも構っている時間はない。なのはは魔導師として、 戦士として判断した。この状況下でそれは正しい判断であったが、キャロには それが少し非情にも見えた。 だが、ティアナは…… 「五分、時間をいただけませんか?」 「えっ?」 「スバルを、部屋から出します」 戦闘を行いながらの人員救助となれば、戦力は一人でも多い方が良い。なの はは数秒ティアナの瞳を見つめていたが、 「三分、それ以上は待てないよ」 部下、あるいは教え子に対する情念からか、それを許したのだった。 スバル・ナカジマは、ここ数日間部屋の外を一歩も出ようとしなかった。テ ィアナが食事を運びに行くも、目にするのは手の付けられていない前に運んだ 食事のプレート。水の一滴も飲んでいる気配はなく、一度ならず怒鳴って食事 と給水のために無理矢理飲食をさせようとしたのだが、 スバルは食べ物を口に含んだ瞬間、吐き出してしまった。 苦しそうに吐瀉物を吐き出し、恐怖に震えていたのだ。 父親の死、目の前で、自ら抱きかかえていた父親が、姉の放った魔力光に貫 かれて死んだ。スバルには、精神的ショックの一言で片付けられることではな かった。その瞬間こそ、沸き上がる怒りをギンガにぶつけることで父親の死を 受け入れようとしたスバルであるが、怒りというのは冷めるものである。 冷静さを取り戻したとき、そこに残ったは姉への怒りに打ち震える少女では なく、父親を永遠に失った15歳の少女が、いるだけだった。 「スバル、入るわよ」 友人が精神上の絶望にあることは、ティアナにだって痛いほど判る。けど、 だからといってそのままにして良いはずもない。多少強引にでも、立ち直って 貰わねば困るのだ。 スバルは、部屋の隅に蹲っていた。他にあるのは、いつもと変わらぬ手の付 けられていない食事のプレート。水のコップも、口を付けた様子はない。 「また、食べてないんだ」 まだではなく、また。戦闘機人だからといって、食物を取らずに生きられる ものではない。スカリエッティの理論では細胞維持が出来れば最低限の食事で 事足りるというのだが、それでも食べなくてはいけないことに代わりはないの だ。 「いつまで、そうしてるつもり?」 尋ねるティアナに、スバルは何も答えない。声が聞こえているのか、聞こえ ていないはずはないと思うが、顔を上げようともしない。側まで歩み寄るティ アナだが、その視線は悲痛と言うよりは、むしろ苛立たしげだった。 「臨海第8空港が、ガジェットに襲われてるそうよ」 その事実に対しても、スバルは反応しようとしない。 「四年前の大火災以来、放棄されていたのが、数ヶ月前から再建をはじめてる んだって……確か、スバルとなのはさんが初めて会った場所だって、言ってた よね?」 ギンガとフェイトが、出会った場所でもある。姉とはぐれ、燃え上がる空港 内を彷徨っていたスバルを、なのはが助けた。スバルは、その時のなのはの勇 姿、それに憧れて魔導師を目指しはじめたのだ。 「空港には今、聖王教会系列の学校の生徒たちがいて、助けを待ってる」 六課はそれを、全力で助けに行くことになった。動ける者は皆、出動するの だ。にもかかわらず、スバルは動かない。 「何とか、言いなさいよ」 ティアナの声が、段々と低く、小さくなる。動かぬ友人に、動こうとしない 友人に、歯がゆさを憶えはじめている。 スバルの胸ぐらを、ティアナが掴んだ。掴み上げ、無理矢理立たせたのだ。 「何か、言うことはないのかスバル!!」 怒声とも言うべき声に、さすがのスバルの表情が変化した。そして、幾日も 水分すら取ることのなかった乾いた唇で、掠れきったはずの声で叫び返した。 「あたしのことは……あたしのことはほっといてよ!!」 思うように力の入らぬ腕で、それでも力を込めてスバルはティアナを突き飛 ばした。乾いた身体からは、涙の一筋も流れることはない。 「父さんが死んで、殺したのはギン姉で……なんで、どうしてこんなことにな ったんだよ!」 愛する家族、それがどうして殺し合わねばならなかったのか。何故、ギンガ はあんなに慕っていたはずの父を殺したのか、スバルには理解できない。何も、 判らないのだ。 「もう嫌だよ、あたしは何も出来ない。何もしたくない!」 崩れるのは、身体だけではない。スバルの心その物が、崩れ去ろうとしてい た。今までスバルの見てきたものが、信じてきたものが、全て虚像だったかの ような虚無感。両親も、姉妹も、何もかもが嘘だったとでも言うのか? 絶望が、スバルの身体を支配していた。出口のない、あったとしても手の届 く位置にはない、沈み行くだけの世界。 「…………スバル」 沈み行くだけ、もはやそれ以外に何も求めてはいない友人の姿に、ティアナ は―― 「歯を、食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 右の拳を持って、殴り飛ばした。 衝撃に、ほとんど無防備であったスバルが壁に叩き付けられた。唖然と、愕 然とした表情で、彼女はティアナを見つめている。 「ティア……」 いつ振りになるのか、スバルは友人の名を口にした。平手打ちなど柔な一撃 とは違う、拳による明快なまでの一発。 「見損なったわよ、スバル」 再び、ティアナがスバルの胸ぐらを掴んだ。 「どうしてこんなことになったのか判らない? そんなの、誰だって判らない わよ!」 二発目の拳が、スバルを殴り飛ばした。無抵抗のスバルは、まともに食らう ことしかできない。 「もう少しばかし、根性のある奴だと思ってた。スバル、アンタは判らないま まで済ますの? このまま現実から目を背けて、いつまでも自分の殻に閉じこ もって、ずっと逃げ続けるの!?」 泣いているのは、ティアナの方であったかも知れない。人を殴るということ は、あるいは殴られた相手以上に、殴った相手の拳が痛むのだ。 「立ちなさいよ、立って、殴り返して見せなさいよ! 悔しくないの? 殴ら れて、悔しいと思える気概はないの?」 そんなもの、ありはなしない。自分が友人に殴り飛ばされても仕方のない腑 抜けになってしまったことぐらい、スバルだって判っているのだ。しかし、判 っていてもどうにもならない。気力が、沸かないのだ。 「アンタがすることは、ここでずっと閉じこもってることなのか、それともギ ンガさんに会ってその真意を正すことなのか、アンタはそれを決めるべきなの よ!」 「そんなの、わかんないよ。嫌だよ!」 「現実ってのはね、いつだって嫌なもんなのよ! 目を背けて生きて行ければ、 これほど嬉しいことはない。だけど、それが出来ないから現実なのよ!」 ギンガと再会すれば、スバルは最後の家族を、実の姉を失うことになるかも 知れない。 「ギンガさんが人殺しを続けるのを黙ってみているのか、それを殴り飛ばして でも止めるのか、判断するのはスバル、アンタだけよ! 選択肢を選ぶのは、 お前一人だスバル・ナカジマ!」 叫ぶと共に、ティアナは掴んでいた胸ぐらを乱暴に離した。そして、倒れ込 むスバルに向かって背を向けた。 「私は、出撃する」 「ティ、ティア……!」 「とっくに、三分過ぎちゃったから」 ティアナは、駆けだした。友人に背を向けて、その目に浮かべた涙を悟られ ぬように、駆けだしたのだった。 なのはたちが現場に急行するよりも早く、ゼロとフェイトが臨海第8空港に到 着していた。 「プラズマランサー!」 射撃魔法で迫り来るガジェットを撃ち落としながら、フェイトは制空権の確 保にと努めている。地上ではゼロが、セイバー片手にガジェットを斬り倒して いる。他にも陸士隊などの武装局員が集結しつつあるが、スカリエッティは途 方もない数のガジェットを投入してきているらしい。 「サンダースマッシャー!」 雷撃の魔力砲撃で周囲のガジェットを一掃すると、フェイトは情報確認のた めに指揮官級の士官に通信回線を繋いだ。 「状況は? 子供たちの避難は?」 真っ先に行われるべきである子供たちの安全確保と、避難誘導。二個中隊か らなる部隊がその活動にあたっているはずだが、未だに完了報告が来ないのだ。 『救出、救助はほぼ完了していますが……』 「ほぼ? 正確に報告を!」 半ば怒鳴るように言うフェイトに萎縮しながら、士官は何とか口を開く。 『そ、それが僅か一名ほど行方の判らなくなった子供が――』 言葉を、フェイトは最後まで聞いていなかった。アークセイバーでガジェッ ト部隊を斬り飛ばすと、一気に地上まで降下しゼロと合流する。 「ゼロ、空港内にまだ子供が!」 報告したところで、どうなるわけでもない。情報共有は大事だが、あいにく ゼロとフェイトは最前線での防衛に乗り出してしまった。 「陸士隊は、発見できそうなのか?」 「捜索はしてるみたいだけど、内部にもガジェットが潜入して戦闘状態になっ てるって」 面倒な事態になった。武装局員も、戦いながら一人の子供を捜し出すのは難 しいだろう。子供だって馬鹿ではないから、火の気のない場所に隠れるぐらい はしているはずだ。それが却って見つけにくくする要因になっているのだが、 必要なことでもある。 「オレたちが行けば、ここにいる敵を引き込む事態になる。それは不味い」 バスターを連射しながら、ゼロは苦い表情を浮かべる。 「六課の連中が到着次第、奴らに任せるしかない」 「わかった。なら、当面はガジェットの殲滅を!」 フェイトは確認すると、また空へと浮上していった。思えば、ゼロとこうし て共同戦線を張るのは、意外にも初めてであった。 地上にあって、ゼロは全ての敵を倒している。下から攻撃を受ける心配がな い、それ故にフェイトは空で大暴れが出来るのだ。 戦闘要員が誰も居なくなった仮隊舎で、スバルは壁により掛かりながら茫然 自失としていた。殴り飛ばされた頬に触れながら、放心状態となっている。 「ギン姉……」 自分は、どうすればいいのか? 困ったとき、迷ったときは、いつでも友人 に、家族に、姉に相談をしてきた。 いつもそうだった。姉は、ギンガは、いつだってスバルを守ってきた。そし て、スバルはそんな姉に甘え、ずっと守られてきた。 幼き日、スバルは姉に言ったことがある。どうしてお姉ちゃんは自分を守っ てくれるのかと。 「そんなの、決まってるじゃない」 姉は笑顔で、スバルの頭を撫でる。 「私が、スバルのお姉ちゃんだからだよ」 姉は、妹を守るものなのだ。そんなことを、スバルは気にしなくて良いし、 気にする必要もない。ギンガはそういって、自分がスバルを助け、守る当然の 理由を語り聞かせた。 「でもね、スバル――これだけは忘れないで」 古い記憶の中で、姉が微笑み、語りかけてくる。 優しかった姉の姿は、もはや記憶の中にしか存在しないのだろうか。 「もし、あなたが誰か困っている人や、助けを求めている人を見つけたら、助 けてあげて」 いや、違う。 「あなたには、私がいて父さんがいて、助けてくれる人がいる。だから、あな たにも、誰かを助けられる人になって欲しいの」 あの時、自分を守ってくれたギン姉は―― 「強くなくてもいい、弱くても構わない。だけど、心だけは、心の強さだけは、 持っていなくちゃダメだから」 スバルは、床に置いてあった水のコップを手に取ると、一気に飲み干した。 冷たくもない、温い水だが、乾ききった身体には冷水よりも、こちらの方が染 み渡った。 「ギン姉……あたしはギン姉よりも弱いけど、弱いけどさ」 あるはずもない力を振り絞りながら、スバルは呟いた。 「心だけは、弱くするつもりはないから!」 ガジェット部隊との戦闘が続く空港では、既になのはたちも合流しての防衛 戦が行われている。港内にはキャロとティアナが突入し、不明者の捜索を手伝 っている。 「吹き飛ばしても、吹き飛ばしても、一向に減らないね!」 何度目かも判らぬ魔力砲撃でガジェットを掃滅しながら、なのはは圧倒的な 物量戦を仕掛けてきた敵に危機感を憶えていた。 「でも、完成後ならまだしも、何で建設途中の空港なんて襲ってるんだろう?」 ガジェットを斬り飛ばしながら、フェイトはふとした疑問を投げかける。確 かに、今までの襲撃地点に比べると、ここは何ら重要性のない場所だ。要人が いるわけでもなければ、施設的に必要ともされていない。 「さあ、案外教会の邪魔をしたかったとか、そんな理由じゃない?」 誘導弾を操作しながら、なのはは先ほどの教会騎士とのやり取りを思い出す。 噛み合わない言葉、発想、なのはの生まれた世界にだって宗教は存在するが、 住んでいた国は無宗教に近いと言って差し支えのない場所だ。それ故かは判ら ないが、どうも彼女は宗教家や宗教権力者の類が好きになれない。 「だって、胡散臭いんだもん」 「なのは?」 「あ、何でもないよ!」 空戦魔導師が一人増えただけで、戦局は一気に覆された。なのはが一個大隊 近い能力を有しているせいもあるのだろうが、敵の方も無限の回復力を持って いるというわけではないらしい。空中部隊は未だに途切れないが、地上部隊は 戦力の薄さを見せ始め、ゼロが突破を試みている。 「こいつらを操る指揮官、ナンバーズが必ずどこかにいる。それを叩けば」 フェイトの心配とは裏腹に、ゼロにはナンバーズと戦うことに対しての抵抗 感はなかった。そんなことを考えている余裕も感情も、あるいはゼロにはなか ったのかも知れない。 ガジェットを斬壊させながら突き進むゼロであるが、その手には一つの端末 が握られいてる。セインの持っていた、ナンバーズ間の通信装置である。反応 によれば、付近にナンバーズは必ずいるのだ。 だが、一体どこに―― 「誰か、探しているのか?」 ゼロの反応は早かった。瞬間的に声のした方向、背後に向かって斬り掛かっ た。緑色の光りと、赤い光が激しくぶつかり合う。 敵は、いた。 姉妹共通の戦闘スーツに、赤い輝きを放つ二刀の刃。間違いなく、ナンバー ズの戦闘機人。 「後ろを、取られただと?」 それとは別に、ゼロは敵の少女に後ろを取られたという事実に驚きを憶えて いた。実際、話しかけられるまで気配を感じなかった。ステルスシステムか、 気配が瞬時に現れた感じだった。 「最後のナンバーズが一人、12番ディード。貴様に負けた姉たちの恨み……そ の首、貰い受ける!」 建設中の空港内では、既に火災が発生している。戦闘が各所で巻き起こり、 移動することすらままならない。 「なんて、酷い」 死体となって倒れる武装局員の姿に目をやりながら、ティアナは救助対象の 少女を捜し求めていた。ただ一人、未だに見つかっていない生徒である。 他の隊員や局員からの救助報告はなく、生きているのか死んでいるのかさえ 判らない。 「違う、きっと生きてる。私が助けてみせる!」 ティアナもまた、昔は助けられて生きてきた。ある時は両親、両親が死んだ 後は兄、特に兄に関してはたった一人の妹として、過保護過ぎるとほどにティ アナを愛し、守り続けた。 しかし、その兄も死んでしまった。エルセアにある墓の下で眠る兄に、妹を 守ることは出来ない。きっと兄は、そんな自分を責めているだろう。守ること の出来ない妹を、心配しているだろう。 「だから、私は強くなる。兄さんが心配しない強い子になって、それで」 兄のように、誰かを守れる人になってみせる――! 「あれは!?」 ティアナの思いが通じたのか、港内の小さなスペースに蹲るように、少女の 姿を発見することが出来た。 ガジェットが周囲にいないことを確認しながら、ティアナは少女、まだ幼女 と言っても良い年頃の彼女に近づいた。 「大丈夫、怪我はない?」 「お、お姉ちゃん……誰?」 よほど怖い思いをした、いや、今現在しているのだ。声と身体はガタガタと 震え、ティアナに向かって飛びついてきたほどだ。少女の身体を抱きかかえ、 その背をさすりながらティアナは落ち着かせようとした。 後は味方を呼んで、この子を安全な場所まで避難させれば、それでいい。テ ィアナは少女を抱えて起ち上がるが、その行く手に、 「不味いっ」 ガジェットⅡ型の一機が、運悪く現れてしまった。しかも、卑しくもティア ナと少女をそのモニターに捕らえ、敵として補足したのだ。 エネルギー光を放ちながら突撃する敵機に対し、ティアナは少女を庇うよう に地面に伏せた。デバイスの一つを構え、飛び交う敵機に向かって銃撃する。 「撃ち落とされろ!」 魔力弾を避けながら上昇する敵機であるが、ティアナは度重なる修練と訓練 のせいかは、ここで発揮された。デタラメに撃っているようで、ちゃんと狙い を付けて放たれた弾丸が、ガジェットⅡ型の推進部に直撃したのだ。 「やった!」 後は、落下してきた敵にもう二、三発の銃撃を加えて破壊するだけだ。ティ アナは再び敵機に向けて狙いを付けるが、敵は落ちてこなかった。なんと、魔 力弾によって推進部を破壊されたガジェットは、それこそメチャクチャな飛行 と浮遊を続け、ついには天井に激突して自滅してしまった。 その光景を見つめるティアナだが、敵との遭遇以上に緊迫した表情へ、顔を 変化させた。 「瓦礫が――!?」 ガジェットの激突によって、天井の一部が崩れ落ちてきた。硬い岩盤とも言 うべきそれは、真っ直ぐティアナと少女目がけて落ちてくる。ティアナは思わ ずデバイスでの破壊を試みたが、それが不味かった。直撃して砕けるわけでも ない岩盤など相手にせず、少女を抱えてその場を離れれば良かったのだ。無益 な抵抗が、結果として二人に逃げる時間を失わせてしまった。 「しまった、当たる!」 せめて少女だけは救おうと、抱え込むように抱きしめるティアナ。自分は死 んでも、この子だけは。 巨大な破片が、直撃した。轟音と共に衝突し、砕け散った。 だが、それはティアナと少女に当たったのではない。 「えっ――?」 ポカンとして、ティアナは少女を抱えたまま顔を上げた。 そして、見た。 「このぉっ!」 両手で、落下してきた破片を受け止める親友の姿を。 「ス、スバル!?」 居るはずのない、来られるはずのない彼女の姿、存在に、ティアナは我を忘 れそうになった。 「ティア、悪いんだけどさ」 無理矢理笑みを浮かべながら、スバルが口を開いた。 「これ、結構辛いんだよね。早く逃げてくれると……助かる」 慌てて、ティアナは少女を抱えてその場を離れた。それを確認すると、スバ ルは右腕のリボルバーナックルを回転させる。 「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 拳の一撃で、スバルは破片を砕き飛ばした。数日間飲まず食わずだったとは 思えない、途方もないパワー。 戦闘機人の底力? 違う、これはスバルの、魔導師として立派に成長した、 誰かを守ることの出来る力を手に入れた、スバル・ナカジマの力だ。 破片を粉砕し、その場にへたり込むスバルに、ティアナは歩み寄った。スバ ルは、近づく親友の顔を見上げた。 「ごめん、待たせちゃった?」 学生時代から続く、待たせたときのスバルの一言。 なら、自分は―― 「待たされたけど、アンタの顔を見たら怒る気も失せたわよ」 笑顔で、ティアナは言葉を返してやった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/bo-dode/pages/102.html
ファイアボールの一撃がカミナギ二人の足元に決まり、一瞬…どれくらい一瞬かというと、戦闘に支障は出ないが、気にしたらまけ…という程度の一瞬 非常に短いが、レイスはその一瞬のうちに掻き消えていた。 その場には6人ほど人間(厳密にはレイスが精神体でDがハーフだかなんだかのエルフ)がいて、そのうち一人が気絶して、4人が驚愕していた。 レイスはいきなり降って来て、シンとスバルの後ろに回り、両手に剣を1本ずつもってつきつける。 「すこし気がつくのに遅れたが、その殺気は…何だ?」 レイスはそういって二人を少しだけ睨みつけるような感じで見る。 「お前等は…弱者のように逃げ回るか!それとも果敢に挑んでくるか…!どっちだ!」 レイスは叫んだ、何かを見据えるような…カミナギ二人は戦慄した。こんな子供の何処にこんな気迫があるのだろうか それを思うのは、フレイアとDも同じだった。 「……仕方ないな」 スバルはそう呟いて、剣を抜き去った。 「ナギは下がってて」 シンは少し迷うが頷く、そしてレイスは剣を下ろし、二歩下がる。スバルも間合いを取るように1歩2歩と下がって行く、そして互いに剣を構える。 「あー、そこの女、そっちのシンって奴を頼む」 「え?ボク?え?えーっと…解ったよ」 「フレイアが女だってよく解ったね、こんなにちいさ」 バコ 【D 死亡(お星様的ないみで)】 【D3 街内部・昼過ぎ】 【名前・出展者】ディー・ゼロディス@テイルズオブコンチェルト 【状態】健康 お星様(あえて言えば気絶) 【装備】無し 【所持品】支給品一式、エリクシール(×3)@テイルズオブシリーズ、霊夢のスペルカード@東方Project 【思考】基本:ルイスを探してから帰りたい 0:気絶中 ※お星様状態です ※30分もすれば目覚めるんじゃないかな~と + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + レイスは剣を構えると、そのままスバルに切りかかる。スバルはその一振り目を軽がると受け流しながら、体を横に反らす。そのままレイスの横に入りこむ ここで一刺し…と普通なら行けるかもしれないが、残念な事にレイスはコレに反応した。それでも剣で受けるのは不可能と踏んだレイスは思いきり跳躍した! そのまま剣を振り下ろすように、同じ場所に下りてくる。しかしスバルは既に何歩も後ろに離れており、それが当る事は無い、しかしレイスは着地、その瞬間2つの剣と刀を振り下ろし、衝撃波を生んだ 「……どういう…!」 おもわずスバルは声を漏らす。まぁ、簡単に言うと、レイスが剣と刀の先に魔力を込めて、それを地面にぶつけて衝撃破を生み出すようにその魔力を解き放った…というのが正解なのだが、スバルはそんな事知る由もない。 そして少しばかり反応が遅れながら、横に飛ぶ、然しやはり遅れてしまい、左足に2つ、切り傷が生まれる。 「あがああああ」 悲痛な声を上げ、スバルは体を一度の横に転がすように回転しながら、動き、おき上がる。レイスはここで一気に詰め寄る。 一振り、剣と剣がぶつかり合う、スバルの剣は縦にレイスの剣は横に。そのままレイスは剣を一突き、一直線に突き出してくる。スバルは横に体を反らそうとするが、軸となる左足に痛みが走り、不完全なものとなる。しかしこの不完全な避けのおかげで、剣がずれて、レイスの態勢が崩れる。レイスの一突きも不完全なものとなった。 完全な攻撃を完全な避けで避けられるのと同様に、不完全な攻撃を不完全な避けでかわす事もまた可能なのだ。 互いにニヤリと笑い、間合いを取るように跳躍する。 「いわゆるアレだな、最後の切りあいって感じ…だから…これで決着をつけようぜ」 レイスが言った。スバルは特に何の問題も無い…とうなずく、 「さぁ、行くぞ!」 「こい」 レイスが叫び、スバルが受ける レイスが駆けた…駆けぬけた。剣が交わり…レイスは倒れた。 そこには…2つ、赤い血溜りが出来ていた。スバルも倒れ、レイスとスバルから、血が流れていた。 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + レイスが倒れる直前考えていた事は単純だった (ああ、切られちまった。どうしようかな、動くのめんどくせぇ…ま、向うもおんなじ感じで腹を掻っ捌いた見たいだし…寝るか) 「大丈夫?ねぇ、大丈夫?」 しかし、寝ようと思った直後に話しかけられ、台無しになるのだった。 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 「できれば退いてくれないかな」 「そうもいかない…向うはやる気よう」 「あ…そう…じゃあ、行くよ!」 戦闘開始だった。互いに詠唱を開始する 「ファイアボール!」 先制はフレイア、シンはそれを何とか避ける。しかし。元から当てる気はそれほど無いようだが 「サンダーソード」 「ファイアボール」 「サンダーソード」 「アイスニードル」 「サンダーソード」 呪文の連打が続く 『フレイムランス!』 互いに叫び、そして衝突した。威力はどちらかと言うとフレイアが勝っていたようだ 「サンダーブレード!」 「サンダーソード」 「ストーンブラスト!」 「サンダーソード」 「ウィンドカッター」 「サンダーソード」 「グレイブ!」 「サンダーソード」 「エクス…」 上級呪文で一気にフレイアは決めようとするが、途中で呪文が中断する。そしてそのまま走り出した。シンは思わず、何事か…と振りかえり、そして気がつく そこには血溜りが出来て、レイスとスバルが倒れていた。 「…く、治療しなきゃ駄目か…仕方ない、退こう」 「大丈夫?ねぇ、大丈夫?」 「ああもう、うっさいな、人が折角寝ようと思ってるのに…まったく」 レイスは叫んだ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + カミナギ二人がさった後に、レイスとフレイアはそらこを取り囲んでいた。 「本当に大丈夫?まだ血が流れてるけど」 「モウ大丈夫だ、痛みしか残ってないしな、後はこっちで何とかする」 フレイアの問いにレイスは何気なしに答えた。本当に何の影響もなさそうだから困る。 「ははぁん、これは酷いな、これだけ精神がそがれてると一日は起きないぞ…」 フレイアはえ…と驚く 「そんなに酷いの?」 「酷いなんてモンじゃない、こりゃ…直すのも一苦労だな」 「一苦労でも、直せるんだよね!」 「ああ、直せるかもしれない、安心しろ、失敗しても死にはしない、1週間は起きなくなるだろうがな」 「…如何するの?」 そう聞くフレイアにレイスは笑って答える 「なぁに、簡単さ、私の精神力を…魔力つかって、魔力に変換、コイツにぶちこむ、その後、もう一度魔力で精神力に変えるってぇことだよ」 「…どこが簡単なのか全然わからないよ」 「普段の私なら余裕なんだよ、問題は、今私の能力が制限されてるってとこなんだ」 「え?そうなの?」 「まぁな」 そういってレイスはそらこの方を見る。 「さぁてと、このままほおっとくわけにもいか無いだろうし…やるか」 そういうと、レイスはそらこの胸の当りに手を当てる。そして、普通ならここで色々エフェクト撒き散らしながら、少し時間を使うのだろうが… 一瞬、そらこの体と、その体に当てていたレイスの手が光ったかと思うと、その光もあっという間に消えていた。 「…んん」 そらこがうめく 「ソラコ!」 フレイアが叫んだ 「あー、こりゃ計算外だ」 「…如何したの?計算外ってことは成功したんでしょ、何があったの」 「まぁつまり…だ、私の精神力にあった能力がこっちにも移ったんだ」 「えっと…どんな?」 「まぁ、簡単に言えば、握力だかなんだかが上がるんだ、どれくらいかというと、一般人にしては妙に力がある…くらいかな」 「うん、それなりにすごいってのはよく解ったよ」 「んー、ここは何処ヨー」 そういっているうちに、そらこがそう呟いてムクリとおき上がる。フレイアは嬉しそうにソラコ!と叫んだ レイスはだるそうにしながら、それを見ている。 「こっちの自爆した奴は30分もすれば起きるだろうから、じゃあな」 「え?もう言っちゃうの?」 「まぁな、あの二人も追いかけといた方も良いし…となると…又墓のほうに行くのか…めんどくさいな…よし、屋敷の方にいって見るか」 「話がのみこめないあるヨー」 「んー、そっちの方から話をきいといてくれ」 レイスはそういってフレイアの方を指差した。 結局ナンだったのかは解らないが、あっという間にレイスは去っていってしまった。 【D3 街内部・昼過ぎ】レイス、及びカミナギ二人はD2の辺りへ向かってます 【名前・出展者】シン・カミナギ@ラ ビ リ ン ス マ イ ン ド 【状態】健康 魔力消費大 【装備】剣 【所持品】基本支給品一式 魔術本 【思考】 基本、ゲームに乗り、優勝する 1、何とか逃げ切る 2、スバルを治療する 【名前・出展者】スバル・カミナギ@ラ ビ リ ン ス マ イ ン ド 【状態】腹が切られている 【装備】セブンソード 【所持品】基本支給品一式 【思考】 基本、シン・カミナギと共にゲームに乗り、シン・カミナギを優勝させる 1、くそっ、どうする……!? 2、痛い 3、リオンたちが心配 ※二人ともレイヴンを敵と確信 【名前・出展者】レイス@レイスの短編帳 【状態】腹が切られてる(本人的には戦闘に影響無し) 精神疲労小 【装備】光墨@ハーフ 緋緋色金の光剣@世界樹の迷宮Ⅱ 諸王の聖杯 【所持品】思い出の品@ハーフ 基本支給品一式 【思考】 基本、弱い奴を保護して、強い奴に引き渡す。中途半端、危険人物は必要無い 1、さぁて、追いかけますか ※レイスは基本大剣を軽々と振りまわすタイプですが、二刀流もOKのはずです 【名前・出展者】右京そらこ@リアクション学院の夏休み 【状態】烈閃槍による疲労 力の強化 【装備】はどうのゆうしゃセット@ミュウと波導の勇者ルカリオ 【所持品】支給品一式、はどうのゆうしゃセット@ミュウと波導の勇者ルカリオ、不明支給品 【思考】基本:殺し合いには乗らない 1:一体何アルヨー 【名前・出展者】フレイア@テイルズオブコンチェルト 【状態】やや疲労、TP消費大 【装備】ミスティシンボル@テイルズオブシリーズ 【所持品】支給品一式、ミニ八卦炉@東方Project 【思考】基本:殺し合いには出来る限り乗らない 1:ナンだったんだろう、結局 2:ソラコが起きてよかった。 3:これからどうしよう 4:ルイス達を探したい 次の話 069 修羅の見出せしは 前の話 071 巫女神子!巫女神子!巫女巫女ルイス!
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/43255.html
いきるすきる【登録タグ い 凪スバル 初音ミク 曲】 作詞:凪スバル 作曲:凪スバル 編曲:凪スバル 唄:初音ミク 曲紹介 凪スバル氏初めての投稿作品。 イラストは骸氏、動画はCHA40氏が手掛けている。 歌詞 (YouTube概要欄より転載) 他人の人生を生きている 周りの景色に馴染んでいく 僕は笑い方さえ忘れていく 弱さを隠して生きている 強さも隠して生きている それが楽なんだって 思うようにした 涙を隠して生きていく 怒りを隠して生きていく 僕はエキストラ演じてる。 それが、楽だから 例えば僕が どうせ 突然消えても どうせ 誰も気づかない どうせ 世界は回る どうせ 耳のイヤホン もっと 世界閉じ込め もっと 虚無でもがいて もっと そうもがいて もっと上手に笑えたら もっと上手に泣けたら もっともっともっともっと そうやって辛くなる 君のスキルが羨ましい 君のスキルが羨ましい 生きるスキルが羨ましい 僕はエキストラだから 弱さで人を惹きつける 強さで人を支配する それが普通なんだって 思うようにした 涙を流して注目を集めて 怒りの台詞で共鳴させて みんなが台詞を読み上げる 僕は傍観者 例えば僕が どうせ 突然消えても どうせ 替えがいるから どうせ 世界は回る どうせ 誰か気づいて もっと 僕に気づいて もっと そんな台詞も そうさ 僕にはなくて もっと上手に笑えたら もっと上手に泣けたら もっともっともっともっと そうやって辛くなる 君のスキルが羨ましい 君のスキルが羨ましい 生きるスキルが羨ましい 僕はエキストラだから 塞ぎ込んだイヤホンの バッテリーがなくなった 嗚呼 街の音も、風の音も 自分の心音さえも 騒々しくてうるさくって 世界を終わらせたくなって だけれど勇気が出なくて あと一歩が踏み出せない 臆病に生かされてる 僕は臆病に生かされてる あと一言がでなくて いつも台詞は空白 イキルスキルが羨ましい イキルスキルが羨ましい もっと上手に笑えたら もっと上手に泣けたら もっともっともっともっと そうやって辛くなる 君のスキルが羨ましい 君のスキルが羨ましい 生きるスキルが羨ましい 僕はエキストラだから 例えば僕が どうせ 突然消えても どうせ 誰も気づかない どうせ 世界は回る コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1741.html
「……なるほどな。話は分かった」 私達は今、杜王町の郊外で承太郎さんと向かい合っている。周囲に人影は無い。 バス停で出会い自己紹介を済ませた後、ここじゃあマズイという承太郎さんに連れられてやって来たのだ。 そこでこちらの調査内容を告げ、返ってきた答えがこれだった。 この数分間で分かったことなのだが、承太郎さんは必要最低限のことしか話さない。 これが意外と厄介だった。普通の人ならただの無口で済むのだが、承太郎さんに無言で見つめられると何だか叱られている気分になってくる。 「それで……その、何か、心当たりはありませんか?」 恐る恐る、といった感じでスバルが聞く。承太郎さんの無言のプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。ちなみに私もそろそろ限界だった。 「……おそらく、君達が捜している『違法魔導師』と、俺達が追っている『殺人鬼』は同一人物だろう」 『殺人鬼』。この穏やかな町にはふさわしくない言葉だと思った。 「殺人鬼……」 「そうだ。この杜王町には殺人鬼が潜んでいる。そいつは十五年間誰にも知られる事なく人殺しを続けてきた。 杜王町での失踪者の大半はそいつの犠牲者だ」 データで見た限りでも杜王町の失踪者は五十人以上居たはずだ。その大半は既に、殺されている。嫌な事実だった。 「……そして、君達はそいつを『違法魔導師』だと思っている様だが……おそらくそうじゃあない」 「『魔導師』じゃあ……ない……?」 私達にとっては信じがたい事だが、承太郎さんは何か『確信』を持っているようだった。 「……数日前に、その殺人鬼に殺された少年がいる。名前は矢安宮重清。友人には重ちーと呼ばれていた。まだ中学生だった……」 「……ッ!」 思わず息を飲んだ。私達がやって来るほんの少し前にも人が殺されたのだ。 胸の中に黒いもやもやとした何かが浮かんでくるのが分かる。 承太郎さんは話を続ける。 「……ここからが本題なんだが、『重ちー』はある『特殊な能力』を持っていた」 「『能力』……ですか?」 「そうだ。俺達はその能力の事を『スタンド』と呼んでいる。どんなものかってーのは後で説明する。 この『重ちー』の『スタンド』はかなり強力でな……同じ『スタンド使い』でも勝てるヤツはそうそういないだろう」 この世界では魔法は確認されていないはず。 『スタンド』。魔法ではない謎の能力…… 更に、承太郎さんは“同じ”スタンド使いでも、と言った。それはつまり…… 「『スタンド使い』は何人もいる……ということですか……?」 「そうだ。『スタンド』はある条件を満たせば発現する一種の『才能』だ。才能さえあれば人に限らず犬やネズミすら『スタンド使い』になる」 「承太郎さんは犯人は『スタンド使い』だと考えているんですか?」 承太郎さんはああ、と短く、だが確かな自信を目に宿らせて肯定した。 「で、でも……殺された子が『スタンド使い』だからって、犯人も『スタンド使い』とは限らないんじゃ……」 おずおずとスバルが意見を述べた。まだ承太郎さんに萎縮しているのだろう。もちろん私もビビっている。このプレッシャーには慣れそうもない。 「ああ、その通りだ。それだけでは『スタンド使い』が犯人だと言い切ることはできない。君達の言うように『魔導師』の可能性もある」 「え!?」 あれほど強い口調で断言した割に、承太郎さんはあっさりと認めた。 予想もしていなかった返答にスバルは戸惑いを露にしている。 「……君達にはこれが『見える』か?」 立てた親指で自分の背後を指しているが、何も『見えない』。注意深く見てみてもやはりそこには何も無いように思える。 スバルにも何も見えていないらしく、うんうん唸りながら目を凝らしている。 「その様子じゃ『見えていない』らしいな。……『魔導師』ならもしや、と思ったんだがな。 だが、これで分かったぜ。やはり犯人は『スタンド使い』だ」 もしこれがマンガなら私達の頭の上にはクエスチョンマークが三つほど並んでいることだろう。 承太郎さんは何か納得したらしいが私達にはサッパリ分からない。 「話していなかったが、俺も『スタンド使い』だ。そして今俺は『スタンド』を……『スタープラチナ』という名前だが、発現させている」 「え!? でも何も……!」 スバルは言いかけて気付いたようだった。承太郎さんは『見えるか』と尋ねた。それはつまり、『見えない者』がいるということ。 「『スタンド』は『スタンド使い』にしか見ることは出来ず……そして『スタンド』は『スタンド』でしか倒せない。 ……後者についてはまだ分からないがな。魔法でなら倒せるかもしれん。 だが、『スタンド』が見えないヤツに重ちーが負けるとは思えない。殺人鬼は『スタンド使い』! これは間違いないだろう……」 「犯人について分かっていることは『三つ』! 性別は男・スゴ腕のスタンド使いである・今も杜王町に潜んでいる! これだけだ。犯人は十五年間この町で殺しを続けている……他の町へ逃げたりはしないはずだ…… だからこそ、犯人を追い詰めることができる!」 そう言った承太郎さんは、コートのポケットから何かを取り出した。 「この『ボタン』は遺言だ……『重ちー』が最後の力で届けた、唯一の『証拠品』。 今はこいつの聞き込み調査を行っている。 ……だが、どうにも人手が足りなくてな。時間が掛かっている。君達にも協力してもらいたいんだが……頼めるか?」 「は、はいっ!」 先に答えたのはスバルだった。少しばかり声が上擦ってしまっていたが、『絶対に殺人鬼を捕まえる!』という決意が伝わってきた。 こういう時に恐れず、迷いなく自分の正義を貫こうとするスバルを羨ましく思う。 正直に言えば、私は少し恐かった。JS事件を経て、成長したという自覚はある。 それでも、得体の知れない能力を持った殺人鬼を私は恐れているのだ。……いつまでも変われない自分が嫌になる。 だが、怯えていたのでは仕事にならない。恐怖を押し殺して返事をする。 「……大丈夫です。任せてください」 スバルには気付かれたかもしれない。あの娘は妙に敏感なところがあるから。 「ン……そう言ってもらえると助かる。 ホテルに部屋を取ってある。杜王町にいる間はそこを自由に使ってくれて構わない。 それと……これは捜査協力者のリストだ。何か分かったらそいつらにも教えてやってくれ。 聞き込みは明日から始めてくれればいい。 俺はちとヤボ用があるんでな……今日はこれで失礼させてもらうぜ」 承太郎さんが去ってからも、私はそこから動けなかった。 「……今日はもうホテルで休もっか? 承太郎さんも明日からでいいって言ってたし。ね、ティア」 「ゴメン、先に行ってて……ちょっと一人で考えたいの……」 気を使ってくれたようだったが、今はそれが辛かった。 「ティア……」 「大丈夫……大丈夫だから……お願い」 スバルはそれ以上何も言わずに立ち去った。時折心配そうにこちらを振り返っていたが、気付かないフリをした。 「何やってんだろ、私……」 心の中に立ちこめた暗雲は、しばらく晴れそうになかった。 TO BE CONTINUED 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/imperatorgiren/pages/322.html
リック・ドム(キャスバル専用機) 図鑑番号 形式番号 正式名称 開発プラン名 開発資金 225 MS-09R 図鑑:リック・ドム[シャア専用機]生産:リックドム/CA兵器:リック・ドム(キャスバル専用) 出典:機動戦士ガンダム(小説版) Height 18.6m Weight 62.6t 必要基礎技術 必要MS技術 必要MA技術 必要敵性技術 関連機体条件 特殊条件 リック・ドムにシャア(キャスバル)を配属して改造 開発プランコメント 開発期間 生産期間 資金 資源 資金(一機あたり) 資源(一機あたり) 移動 8 索敵 C 消費 28 搭載 × 機数 1 制圧 ○ 限界 170 割引 耐久 200 運動 45 物資 150 武装 × シールド × スタック ○ 改造先: 特殊能力: なし 生産可能勢力: ジオン公国軍 正統ジオン軍 ネオジオン・キャスバル アクシズ ネオジオン 武器名 攻撃力 命中率 射程距離 ビームバズーカ 180 70 1-2 スプレッドビーム 6 50 1-1 ヒートソード 120 70 0-0 宇 空 水 寒 森 山 砂 陸 攻撃 ○ - - - - - - - 移動 ○ - - - - - - - 寸評: 宇宙専用のドワッジ改な印象。 シャア専用なだけあって、この時期にしては運動性はかなりのもの。 宇宙の射撃部隊の指揮官機として数機作るのもありか?
https://w.atwiki.jp/henroy/pages/138.html
変身超人大戦・開幕 ◆LuuKRM2PEg 「グゴザ、ゴンバボド……!」 闇に包まれた森林の中で、いきなり人間の姿に変わった怪人コウモリ男は奇妙な言葉を発しながら、力無く地面に膝をつけていた。その姿に先程までの殺意や凶暴性は感じられず、ただの怯える人間と何ら変わりない。 普通なら、そのような男は迷わず保護するだろう。しかし相手はアインハルト・ストラトスという心優しい少女を殺そうとした凶悪な怪人だ。そんな奴を生かすという選択は仮面ライダー1号に変身した本郷猛には存在しない。 ここで確実に仕留めなければ、犠牲者は確実に出てしまう。数え切れないほどの怪人を屠ってきた1号の選択は早かった。 「ア、ア、ア……アアアアアアアアアアアアアアアア!」 しかし一歩踏み出した直後、コウモリ男は絶叫と共に後ろに駆け出す。こちらへ振り向くことはせずに、生い茂る木々の間に消えていった。 「待て!」 「待ちなさ……!」 一号はすぐさま追跡して撃退しようとしたが、その瞬間に息も絶え絶えとなったアインハルトの声が聞こえる。振り向くと、前に出ようとした彼女は苦痛で表情を歪ませていた。その小さな身体が倒れそうになるも、鹿目まどかがすぐに支える。 一方で、コウモリ男はこの僅かな時間で闇の中に姿を消している。改造人間となって強化された視力でも、捉えることができなくなった。 「本郷さん、私に構わずあいつを倒しに行ってください……!」 「そうです! アインハルトちゃんは私が見てますから」 「いや、そうする訳にはいかない」 アインハルトとまどかの心遣いは非常に有り難かったが、それに甘える気はない。こんな状況で若い少女二人をほったらかしにするなど有り得なかった。そんなことをしては、彼女達に危険が襲いかかるだけ。 「今の状況でコウモリ男を深追いするのは危険だ! この森の中には、危険人物がまだ他にいる可能性がある。それに今は戦いの疲れを癒すことが最優先だ……わかってくれ」 何者かに洗脳されたアインハルトの仲間であるスバル・ナカジマがすぐ近くにいるかもしれなかった。それにもし、彼女を洗脳した者が手練れだったら三人とも全滅する危険がある。 悔しいが、今はこの森から抜け出して少しでも安全な場所で休憩しなければならなかった。このまま暗闇の中にいて、三影英介のような危険人物と遭遇したら元も子もない。 スバルを元に戻す手がかりも掴めない以上、これ以上長居しても仕方がなかった。 「……申し訳ありません。勝手なことを言って」 「いや、大丈夫だ。それよりも、今は急いで森から出よう。少しでも、体制を整えないとな」 少し表情が暗くなってしまったアインハルトを一号は励ます。そのまま彼女の傍らに立っていたまどかの方に振り向いた。 「まどかちゃん、ここは俺が先導する。だからアインハルトちゃんのことを、頼んでもいいか?」 「わかりました! それくらいなら、お安いご用です!」 「ありがとう」 本来ならば二人を抱えて森を抜けだしたかったが、両手の使えない状態では不測の事態に素早く対応できない。不本意ながら、アインハルトのことはまどかに任せるしかなかった。 今は一刻も早く、二人に無理をさせないペースでここから抜け出さなければならない。 (スバル……すまない、君を助けられるのはまだ先になりそうだ。どうか無事でいてくれ) もしも巡り会う形が違っていたら、頼れる仲間になっていたであろう少女の無事を祈りながら。 一号は己の無力さを呪いたかったが、それでは今ここにいる少女達を守ることなどできない。仮面ライダーである以上、一切の弱音を吐くのは許されなかった。 ◆ 目障りなリント達を殺せるかと思った。 二人のクウガをこの手で潰せるかと思った。 このゲゲルに勝ち残って、自分を見くびったゴ・ガドル・バとン・ダグバ・ゼバの二人を捻り潰せるはずだった。 「ア……ア……ア……!」 しかしようやく手に入った『ン』の名を持つ究極の力は、急に使えなくなってしまう。何度も変身を繰り返したが、何も変わらない。最早リントと同じ、ただの駆られる対象でしかなかった。 ズ・ゴオマ・グの脳裏に究極の闇をもたらす者の姿が浮かび上がる。奴は同族たるグロンギ達など、蛆虫程度の弱者にしか思っていない。ダグバこそが全ての頂点に君臨する、絶対なる王者なのだ。 「グゴザ……グゴザ……グゴザ……グゴザ……!」 こんなの嘘だ。こんなの嫌だ、死にたくない。そう思ってゴオマは木々の間をひたすら走るも、周りには闇しか見えなかった。それがまるでダグバのように思えて、ゴオマの中で『恐怖』という感情が徐々に湧き上がっていく。 もしもここで誰かに見つかったら一瞬で殺される。ダグバ以外にもクウガやリントの戦士に見つかってしまえば、自分は終わる。 そんなのは嫌だ! 「グゴザ、グゴビビラデデス――ッ!」 そうやってゴオマは逃げ続けたがその足は唐突に止まり、次の瞬間には脇腹に違和感が走る。不意に目を移すと、そこには一本の剣が刺さっているのが見えた。 ゴオマから鮮血が勢いよく吹き出し、周囲に飛び散っていく。そして彼の体温が急激に下がり、激痛のあまりに膝を落とした。 「ア、ア、ア、ア……アアアアアアァァァァァァァァァァ!」 ゴオマの喉から静寂を引き裂くような悲鳴が発せられ、そのまま水溜まりのようになった血の中へと倒れていく。水が跳ねるような音が聞こえ、血生臭い鉄の匂いが嗅覚を刺激した。次の瞬間には突き刺さっていた剣が引き抜かれ、出血は更に激しくなる。 「ア、ア、ア……ア……ッ!」 いつもリントを殺すときに嗅いでいた血の臭いが、今はやけに不愉快に思える。そしてゴオマは、噴水のように溢れ出る血液を見て恐怖を抱いた。 とても寒い。 とても痛い。 とても苦しい。 とても辛い。 とても気持ち悪い。 とても怖い。 様々な感情がゴオマの脳裏から鮮血と共に溢れ、やがて瞳から涙を流す。しかしそれは血によって呆気なく飲み込まれてしまった。 もう、何が何だかわからなくなっている。今ここで何が起こっているのか、自分がどうなっているのかも。 世界が暗くなっていく。僅かながらに見えていた木々も、見えなくなっていった。 指を動かそうとしても身体が言うことを聞かない。 「ア……ア、ア、ア……ア……?」 血溜まりに沈んだゴオマの瞳は、遠くより人影が近づいてくるのを捉える。赤く染まった視界はぼやけてまともに見えないが、誰かがいるのは確かだった。 ゴオマは何とかして顔を上げようとするが、それすらもまともにできない。鼓膜に響いた足音は、すぐに止まる。 ――さあ、あなたのご飯よ。たっぷり食べなさい 次に聞こえてきたのはそんな声だった。それは吹雪のように冷たくて、全てのゲゲルを取り仕切るラ・バルバ・デのような威圧感が感じられる。 闇の中から、太い植物の蔦のような何かが何十本も飛び出してきて、次の瞬間にはゴオマは全身に凄まじい圧迫感を感じた。絡みついたそれはうねうねと蠢き、皮膚や身に纏った衣類を次々と引き裂いていく。露わになった肉は噛み付かれ、そこから音を鳴らして血を啜られた。 自分は喰われているのだとゴオマは思い、藻掻こうとするが縛り付けられた全身は動いてくれない。不意に、蔦の向こう側からこちらに向けられた視線を感じる。 自分はただの獲物でしかない。そして、飢えた捕食者はその牙で自分の全てを喰らいつくす気でいるのだ。 到底耐えられない恐怖を前に、ゴオマはただ怯えるしかできない。もう泣き叫ぶこともできなかった。 しかし、そんなゴオマの視界はすぐに赤く染まって、次の瞬間には全てが漆黒に塗り潰された。もう痛みも苦しみも一切感じられず、恐怖や不安も抱くことはできない。 だが、これ以上怯えることもなくなったので、ズ・ゴオマ・グはある意味では救われたのかもしれなかった。 ◆ 「あらあら、そんなに勢いよく飲み込んじゃって……しょうがないわねぇ」 スバル・ナカジマの意識を浸食しているソレワターセが男の肉体を飲み尽くしたのを見て、ノーザは唇で三日月を作りながら嘲笑う。 先程、スバルや仮面ライダー一号に変身した本郷猛という男やドーパントや魔導士に変身した少女を相手に戦っていた、コウモリのような怪人。どういう理由かは知らないが変身せずに怯えながらこちらに逃げてきたので、禍々しい形状の剣を投げてそのまま命を奪った。 男の血に濡れた刀は元々、スバルが殺したシャンプーという少女に渡された支給品の一つ。どうやら、別の世界に存在するナナシ連中という怪人が持つ武器らしい。ただの刀がそこまで役に立つかどうかはわからないが、装備は多いに越したことはなかった。 コウモリ男のデイバッグを手に取りながら、ノーザはスバルの方に振り向く。 「まあ、あなた達はよく働くからこれくらいは仕方ないかしら……ねえ、マッハキャリバー?」 『その通りです、ノーザ様』 スバルの足に装着されたローラーブレードの中央に埋め込まれたクリスタル、マッハキャリバーは無機質な電子音声で答える。 ソレワターセの支配はスバルだけに留まらず、人工知能が搭載されたインテリジェントデバイスという機械にまで及んだ。その際にノーザはスバルとマッハキャリバーに関する全ての情報を引き出し、魔導士と時空管理局のある世界の存在を知った。 スバルと戦っていたあのアインハルト・ストラトスという少女も魔導士の一人らしい。 「確かアインハルトとか言ったわね……本当にあなたは知らないの?」 「申し訳ありませんが、存じておりません」 「そう……」 どうやらあのアインハルトはスバルのことを知っているようだが、スバル自身やマッハキャリバーも知らないようだ。似ている他人と見間違えてるか、それとも遠くで見ていただけなのかも知らないが、今はそこまで気にすることではない。 ノーザは、闇に包まれた木々の間に振り向く。 「ところでいつまでそうしているつもり? 言いたいことがあるなら、出てきた方が良いわよ」 「ほっほっほっほっほ……やはり、知られてましたか」 漆黒から返ってきたのは明らかな猫なで声だった。その僅かな言葉だけでも、明らかに慇懃無礼な態度が感じられる。 そして、鋭い視線を向けているノーザの前に現れたのは紛うこと無き怪物だった。古来日本で朝廷に仕えていた公家の衣装を身に纏っていて、まるでガイアメモリによって生まれるドーパントを彷彿とさせる。能面のように無機質な表情はぴくりとも動かないが、笑っていることだけは理解できた。 「我が名は筋殻アクマロ……この度は、貴方のご活躍をとくと見させて頂きました。ノーザさん」 そして、筋殻アクマロと名乗った怪物は何の躊躇いもなく言い放つ。恐らくその口ぶりからしてスバルがシャンプーを殺したことや、ソレワターセの力を見抜かれている。 こちらと同じく戦いの一部始終を目撃していて、下手人であるスバルの戦闘力を前に堂々と姿を現した。恐らく、アクマロ自身もそれなりの修羅場を潜り抜けた猛者かもしれない。 「いやはや、あなたのようなか弱そうな女性が、まさかとてつもなく腹黒いとは……まさに外道と呼ぶに相応しいですな」 如何にも神経を逆撫でするような口調に、ノーザは思わず苛立ちを覚える。 しかしここで激情に任せて襲いかかったとしても、無駄に消耗するだけ。今のスバルに任せたとしても、消耗した状態では得体の知れない相手と戦わせるのはいい方法とは思えない。ソレワターセを投げつけたとしても避けられるし、その後に逃げられてこちらの情報を他の参加者に伝えられる可能性があった。 「……下らない自己紹介はそこまでにしなさい。アクマロと言ったわね、望みは何なの?」 だから今は感情を抑えて、アクマロとの交渉に持ち出さなければならない。わざわざ馬鹿正直に姿を現したのだから、何の考えもなく接触したとも思えなかった。 「望みですか……? そうですね、地獄をこの身で味わうことですな」 しかし返ってきた言葉は、あまりにも抽象的で理解し難い単語だった。 「何を言っているの、あなたは……?」 「言葉の通りですとも。人々の嘆きと悲鳴や苦痛……それらを鍵として、地獄へと通ずる扉を開く……そして地獄に染まったこの世を味わうことこそが、長年に渡る我が悲願なのです」 「嘆きと悲鳴?」 「左様ですとも。条件さえ整うのなら、この地で地獄への扉を開くことも可能かもしれませぬよ……?」 普通に考えればただの狂言としか思えないアクマロの言葉を、ノーザは一語一句として聞き逃さなかった。 まるで道化を演じているかのような飄々とした態度だが、一切の嘘偽りは感じられない。しかもこちらは殺気を飛ばしているにも関わらず、アクマロは平然と両腕を広げていた。 それにその動作も、一見すると隙だらけだが実際は間逆。むしろ考えなしに飛び込んだ馬鹿者を、一瞬で肉塊に変えてしまう程の実力を持っているかもしれなかった。 「私はこの戯れを進めるにおいて、ノーザさんの力になると誓いましょう……その見返りとして地獄を味わうための手伝いをして欲しいのです」 「だいたいわかったわ……でも、地獄を見せるといってもどうするの? まさか、大勢の参加者をただ倒していくって訳じゃないでしょうね?」 「いえいえ、そんな野蛮で愚かな手段などではありませぬ。我の秘儀、裏見がんどう返しの術を使うだけですとも」 「ふぅん……それはどんな技なの?」 「人の嘆き、悲痛……それらを一直線になるように複数の土地へ植え付け、この世とあの世の間となる楔を作るのです。そこを、我が同胞たる人と外道の狭間に立つ者……腑破十臓さんが裏正という刀で楔を切れば、たちまちこの世は地獄に飲み込まれます……!」 饒舌に語り続けるアクマロの顔は微塵にも変わらないが、その声は次第に高揚していくのを感じる。もしも人の顔面だったら、余程うっとりしていることが見て取れた。 正直、胡散臭いことこの上ない相手だが、この世界を地獄とやらに飲み込ませる術とやらは実に興味深い。それは深海の闇ボトムから生まれた怪人達にとって、喉から手が出るほど欲しい物だ。 このままスバルにアクマロを飲み込ませて、その方法を全て奪い取ることもできる。しかし共闘を持ちかけている以上、戦力をわざわざ潰すのも馬鹿馬鹿しい。それはアクマロが裏切った時でも遅くなかった。 「面白そうじゃない、あなたの望む地獄とやらは……いいわ、乗ってあげる」 「左様でございますか! 御心を満足していただいたようで、恐悦至極に存じます……!」 「それで、まずはこの会場の各地に参加者の不幸を植え付けながら、その十蔵という男を探せばいいのね? 地獄とやらを味わうには」 「そうですとも……ただ、できるなら十蔵さんと裏正……そしてもう一つ、薄皮太夫さんの作った三味線の確保を優先させとうございます。この三つが揃わなければ、我が悲願は達せられぬのですから」 「なるほどね。でも、十蔵という奴はともかく他の二つはどうするつもり?」 「恐らく、他の参加者の手に渡っているでしょう。厳しいですが、それを奪うしかありませぬな」 「そう、わかったわ」 殺し合いの会場に不幸を植え付けるのは、それほど問題ではないかもしれない。一直線どころか、もうこの島全体に悲劇が広がっているといっても過言ではなかった。 だが、最大の問題は腑破十臓という男。もしもこの男が途中で勝手に倒れたりしたら、アクマロの計画全てが水の泡となってしまう。別にそれ自体は構わないが、地獄を味わえないのは惜しい。 「なら、今はその男を探しながら会場にもっと多くの不幸を植え付けることを優先させるべきかしら? 悲しみは、多いに越したことはないから」 「でしょうな。もっとも十蔵さんとて、そう簡単にやられるお方ではありませぬ……悲しみを適度に広げながら、捜せば宜しいでしょう」 「じゃあ、まずは悲しみを植え付けることが先ね……」 そしてノーザは、アクマロが現れてもまだ無表情を貫き続けるスバルに振り向く。 「スバル、あなたが最初に仕留めたあのシャンプーとか言う小娘に変装しなさい。そしてあの本郷猛達に取り入るのよ……プリキュア達に襲われたと言ってね」 「わかりました」 淡々と答えるスバルの背中に植え付けたソレワターセから何十本もの触手が、空気を朔勢いで飛び出した。そのままスバルの全身を覆い尽くして、蠢きながら形を変えていく。するとスバルに纏わり付いたソレワターセは、ほんの一瞬でシャンプーの姿に変わった。 それによって金色の瞳は青く染まり、僅かながら生気を取り戻したように見える。しかし、人形の如く無機質なことに変わりはなかった。 「ほう! これはこれは……あの愚かな小娘に瓜二つではありませぬか。いやはや、ソレワターセは実に万能ですな」 「まあ、あの加頭という男が何かをやらかしたみたいだから、本調子じゃないけどね」 後ろに立つアクマロの驚いたような声が聞こえる。 かつてインフィニティを奪う際に桃園あゆみの姿をコピーしたときと同じように、ソレワターセの力でスバルを変装させた。本郷達に接触させるならば、こちらの方がソレワターセの触手が見えないだけ便利だった。最初は猛にも変装させようと考えていたが、加頭順が何かを施したのかそれは叶わない。 今はスバルをただのか弱い弱者だと思わせて、不意打ちを仕掛けて集団が潰れるきっかけを作る。そこから、鹿目まどかやアインハルトがどんどん壊れていく姿が見られれば最高だった。 もしも戦闘が起こったとしても、スバルの体力も回復しているだろうからそれほど問題ではない。 「ああ、ノーザさん。スバルを向かわせる前に一つだけ言い忘れていたことがあります」 「まだ何かあるの?」 「ええ、我に配られていた道具の中に一つだけ気になる物がありまして」 何事かと思ってノーザが振り向くと、アクマロはその手に籠手を抱えているのを見る。それはスバルがシャンプーの頭を潰すのに使ったリボルバーナックルというデバイスと、非常に酷似していた。 「恐らくこれはスバルが使っていた物の左手用でしょう……万が一、戦闘になったときに役に立つかと」 「確かに、二つ揃えた方がいいでしょうね……で、まだ何かあるの?」 「いえ、大したことではありませぬ……ただ、悪評を広めるのはあなたの敵対するプリキュアとやらだけではなく、我が望みの邪魔となるであろう志葉丈瑠、池波流ノ介、梅盛源太、血祭ドウコクの四人も加えて頂きたいのです。こやつ等を生かしておいては、後々厄介になりますので」 相当な策士と思われるアクマロがわざわざ戦力増強となる装備を見せびらかして、どんな交換条件を持ち出されるかと思ったら、単なる邪魔者の排除。それだけのために自分の首を絞めるような真似をする馬鹿とも思えなかった。 しかし、ここでアクマロの真意を暴こうとしても何も進まない。スバルの戦力を増強できるのなら、邪魔者を潰す程度はお安い御用だ。 「……そう、わかったわ。いいわねスバル?」 「仰せのままに」 「じゃあ、左手を出しなさい」 スバルは言われるがままに左腕を前に突き出し、アクマロはそこにリボルバーナックルを添える。すると掌からソレワターセの触手が飛び出て、リボルバーナックルを飲み込んだ。しかし彼女の右手はそんな痕跡を残さず、すぐに元の白さを取り戻す。 「それじゃあ、奴らを追うのよ。あなたのお芝居がどれだけ優れているのか、私達は楽しみにしているわ」 「全ては……ノーザ様のために」 シャンプーの声で答えたスバルは勢いよく地面を蹴って、猛達が向かった方向を目指すように疾走した。本来の姿ではないので速度は些か衰えているようだが、それでも追い付くには問題ない。 「あなたも中々に酷い方だ……まあ、あれがスバルの幸せなのですから止めはしないですが……!」 「あら、見たところアクマロ君も負けず劣らずに思えるけど?」 「これはこれは……お褒め頂き光栄に存じます……!」 余程愉快と思っているのかアクマロの声は歓喜に震えている。 やはりこの怪物も人の嘆きと悲しみを愉悦とする、悪意に満ちた存在だ。それもナイトメアのアラクネアやハデーニャ、エターナルのネバタコスやムカーディアのように知略にも長けている。 もしも裏見がんどう返しの術とやらを使えば、この殺し合いは一体どうなるのか? 遠ざかっていくスバルの後を追いながら、ノーザは不意にそんなことを考えていた。 ◆ この殺し合いに巻き込まれてから最初に殺したシャンプーの皮を被り、木々の間を駆け抜けるスバル・ナカジマは、ふと両手に目を移す。 シャンプーの姿を真似たソレワターセの中には、二つのリボルバーナックルが潜んでいる。それを二つ揃えてから、スバルの中で正体のわからない蟠りが広がっていた。 まるで大切な誰かを裏切っているようで、心が全く晴れない。偉大なる主のノーザ様とその協力者となった筋殻アクマロが望んでいるのに、どういう訳か気が進まなかった。 (高町なのは……さん) マッハキャリバーがノーザに情報を伝える際に呼んだその名前が、スバルは心の中で何度も反芻している。 しかしそれが一体何を意味するのかが、彼女はまるでわからなかった。 (フェイト・テスラロッサ……ユーノ・スクライア……ティアナ・ランスター……ヴィヴィオ……) 次々と名前が浮かび上がるごとに、疑問も湧き上がっていく。いつどこで、その名を知ったのかが思い出せない。 けれども、彼らと共に過ごしたことがある気がした。どうしてそう言いきれるのかはわからなかったが、みんなから大切なことをたくさん学んだこともある。 これからやろうとしていることは、そんな彼らへの裏切りだった。そう思った途端、急に胸が痛くなり、そして熱くなってくる。 『あなたのお芝居がどれだけ優れているのか、私達は楽しみにしているわ』 しかしノーザの言葉を思い出した瞬間、湧き上がってきた疑問は一気に消えた。 『あなたの力をもっと私にみせてちょうだい……それがあなたにとっての幸せなのだから』 そして背中にいるソレワターセによって、ノーザが教えてくれた至福の行いを思い出される。 シャンプーの頭を潰したときの感触に、手に付着した血の臭いと味。それらを味わった瞬間、全身に酒を浴びて酔ったような快楽が脳髄を走った。 『あなたのおかげであなたも私も幸せになれるのよ……それだけは間違いないわ』 恐怖に震える弱い相手を嬲り殺しにして、絶望のどん底に叩き落とすという行為。殺す直前、シャンプーが最後に見せた苦痛に歪む表情はこの上なく愉快だった。先程、殺し損なったあの鹿目まどかという少女も、死が間近に迫ったことで恐怖に震える。もしもあのまま殺すことに成功したらまどかは、そして周りの人間はどんな絶望を見せてくれるのか? そう考えたスバルは無意識の内に笑みを浮かべる。ソレワターセによって無理矢理作らされたその顔は普段の彼女が作る笑顔とはあまりにも遠くて、凄惨だった。 しかしノーザの願いを叶えるために走り続けるスバルはそれに気付かない。ただ、ソレワターセの意志に任せて一つでも多くの殺戮を目指すだけだった。 ◆ 「すると、あなたがあの広間で加頭を前に名乗り出た仮面ライダー一号……本郷猛なのか!?」 「その通りだ……しかし、異世界を渡る仮面ライダーがいるとは」 「私も最初は驚いた。だが、あなたの他にも仮面ライダーが九人もいるのか……なら、我々の知らない仮面ライダーも他に多くいることになるのか?」 「流ノ介の話を聞く限りでは、その可能性は高そうだな」 朝日が水平線より姿を現して空に光を取り戻していく中、B―7エリアに建つホテルのロビーで本郷猛と池波流ノ介は互いに情報交換した後、驚愕の表情を浮かべている。 数多の異世界を渡る通りすがりの仮面ライダーに、数多の秘密結社が結集した悪の組織BADAN。それは限られた仮面ライダーの知識しか持たない二人を驚かせるのに、十分な威力を持っていた。 「まさか別の世界には、外道衆という組織とそれに立ち向かうシンケンジャーという集団がいるとは……争いはどの世界にもあるのか」 「……実に悲しいことだ。しかも私達が出会った若い少女達までもが、戦う世界があるなんて」 「全くだ」 猛と流ノ介の表情は沈鬱に染まり、そのまま溜息を吐く。 元々、彼らは争いを好むような性格ではない。できることならば、戦いを回避して平和的に解決することを願っていたが、悪はそれを許すような相手ではなかった。だからこそ、多くの人々を守るために戦うしかない。 今までもそうだったし、この戦場でもその方針を変えるつもりはなかった。 「まさか、この殺し合いにはそのBADANという組織が関わっている可能性があるのではないか……!? 本郷、あなたの話を聞いていると、それだけの技術力と冷酷さを併せ持つ奴らなら、こんな狂った戦いを開くのもありえるかもしれない」 「その可能性も否定できないが、まだ断定は不可能だ。今は、この戦いを止めて仲間を集めることが最優先だ」 「……そうか」 そう頷く流ノ介の身体を、猛はまじまじと見つめる。その視線に気付いた流ノ介は、思わず怪訝な表情を浮かべた。 「……どうかしたのか?」 「確か、十蔵という怪人を君は追っているんだったな。だが、見たところまだ怪我は完治していない……それで満足に戦えるのか?」 「……例えそうだとしても、こうして休んでいる間に十蔵やアクマロ……それにドウコクによって犠牲者が出るかもしれない。それを防ぐためにも、あまりのんびりしていられないんだ!」 「そうか……だが、無理をするな。君にもしものことがあっては、悲しむ人間がいるのは君だってわかっているはずだ」 「お心遣い、かたじけない。だが、例えこの身体がどうなろうとも止まるわけにはいかない……それはあなたもそうじゃないのか」 「そう言われると痛いな……」 申し訳なさそうに頭を下げる流ノ介の言葉に、猛は思わず苦笑する。それは常日頃、緊張に張りつめていた彼がたまにしか見せない笑顔だった。 本郷猛と池池波流ノ介から少し離れた場所で、四人の少女達が集まっている。普通ならば、同年代の少女が集まれば話に花が咲くかもしれないが、殺し合いという状況がそれを奪っていた。 しかしそれでも、少女達は決して絶望していない。これまで何度も困難が訪れても折れなかった強い精神と、誰かを守りたいという揺るぎない思いが彼女達の支えになっている。 四人は皆、殺し合いに巻き込まれた親しい友人達と再会するまで倒れることはできないと考えていた。 「未来の私が……管理局でたくさんの人を鍛えてるって本当なの、アインハルトさん!?」 そして今、高町なのははアインハルト・ストラトスより告げられた事実に驚きを隠せないでいる。 「はい。なのはさんは私達の時代じゃ、数々の難事件を解決したエース・オブ・エースと呼ばれるほどの魔導師です。私も、未来のなのはさんから色々なことを教わりました」 「……そうなんだ」 一三年後もの月日が流れた未来のミッドチルダよりやってきたという、アインハルト・ストラトスという年上の少女。彼女が生きている時代の自分は、フェイト・テスタロッサやユーノ・スクライアと力を合わせて多くの困難を乗り越え、更にはスバル・ナカジマやティアナ・ランスターという少女達を一人前の魔導師として鍛えたらしい。 「じゃあ、名簿に書いてあった高町ヴィヴィオって人は……私の娘で、アインハルトさんはヴィヴィオのお友達……なんですよね?」 「はい」 「……そうなんだ」 あっさりとアインハルトは肯定するが、なのははそれを素直に受け取ることはできなかった。 数分前、いつきからうさぎのぬいぐるみを受け取った際、この世界に連れてこられた友達の中には、別の時代から連れてこられた可能性があると聞いた。その時はまだ推測レベルの話でしかなかったが、アインハルトの存在が真実だと証明している。 アインハルト曰く、未来の自分は天涯孤独だったヴィヴィオを引き取って、養子にした際に『高町ヴィヴィオ』となったらしい。あまりにも荒唐無稽で信じがたい話だが、なのはにはアインハルトが嘘を言っているようにも見えなかった。 「未来のなのはちゃんは、そんな人になってるんだ……凄いね!」 「あ、ありがとうございます……」 そしてアインハルトの話を聞いた鹿目まどかは、羨望の眼差しを向けている。しかし今のなのはにとって全く覚えのないことなので、賞賛の言葉が妙に気恥ずかしかった。 ほんの少しだけ顔が赤くなってるなのはは、明堂院いつきが微笑んでるのを見る。その笑顔は、何やら意味有りげに思えた。 「……なんですか、いつきさん」 「なのは、もしかして照れてる?」 「照れてません!」 「はいはい、わかってるわかってる!」 「何ですか、それ!?」 「いいんだよなのはちゃん、無理しなくても」 「まどかさんまで、やめてくださいよ! もう!」 なのははムキになって反論するが、いつきとまどかはからかい続ける。明るい声がロビーに響いて穏やかな空気が生まれつつある中、アインハルトだけが沈鬱な表情を浮かべていた。 それを見たなのはの顔は、ほんの一瞬で羞恥から疑問に染まる。 「……アインハルトさん、どうかしました?」 「いえ……何でもありません。すみません、ご心配をかけて」 アインハルトはそう答えるが、どう見ても大丈夫とは思えない。明らかに落ち込んだ様子の彼女の前に、いつきが出る。彼女の顔は今さっきまで見せていた笑顔が嘘のように、ほんの少しだけ暗くなっていた。 「もしかして、スバルさんのことを考えてたの?」 「……はい」 暗い表情で俯いていたアインハルトは、蚊の鳴くような声で頷く。 彼女は数時間前、何者かに操られたスバルに襲われたらしい。その様子は普段のスバルからはとても想像できないくらいにおぞましく、まるで殺戮兵器を思わせるほどに残酷だったとアインハルトは言う。 それを聞いた時、なのはの中でやり切れない気持ちが溢れていった。本当は優しい人間であった未来の愛弟子が、誰かの悪意によってやりたくもない戦いを強いられている。それが一体どれだけ辛いことなのか……なのはには、想像することすらできなかった。 もしもスバルが自我を取り戻して自分自身の罪を知ってしまったら、きっと深い悲しみに沈んでしまうかもしれない。だから、これ以上望まない戦いをさせられてしまう前に何としてでも助けたかった。 「わかった、僕もスバルさんを助けるのに協力するよ……優しい人を無理やり戦わせるなんてこと、許せないからね」 いつきの眼差しはとても真摯で、それでいて静かな怒りが燃え上がっている。彼女の気迫は、本当に男だと思わせてしまうほどに凄味があった。 そんないつきの怒りはなのはにも大いに理解できた。 「私も、アインハルトさんやいつきさんと一緒にスバルさんを助けたいです! だって、操り人形みたいにされるなんて……酷すぎるから!」 もしももっと早く出会えたら、きっとわかりあえてたかもしれない。始めのうちは戸惑うかもしれないが、それでもこの殺し合いを止めるためにスバルと力を合わせていたはず。だからこそ、一刻も早く彼女を助けたかった。 「そうだな、それは私も同じだ」 そして池波流ノ介と本郷猛もまた、アインハルトの前に立つ。 「誰かの意思を奪って、この殺し合いの片棒を担がせる輩など私は断じて許せん……見つけ次第、この手でたたっ斬る!」 「そうだ。平和を願って得た力を悪に利用する……その意思や日々の積み重ねを踏み躙る奴を、仮面ライダーは決して許したりはしない」 彼らが握り締める拳からは、計り知れないほどの憤りと悪に対する憎しみが感じられた。恐らく、この二人はスバルを利用した者を見つけたら何の躊躇いもなく殺すだろう。 しかしそれをなのはは止めなかった。もしかしたら相手にも理由があるのかもしれないし、可能な限りなら救いたい。だけど今回の相手はあまりにもタチが悪すぎた。もしも身勝手な理由でスバルを操ったのだとするなら、悪魔になってでも止めるかもしれない。 「アインハルトちゃん、私もできる限り協力するよ……どこまでやれるのかわからないけど」 そしてまどかは優しく微笑みながら、アインハルトの両手を握り締めた。その姿はまるで、妹を思いやる姉のように暖かさに満ちている。 例えるなら、泣いている自分を励ましてくれた美由希や恭也のように。 「皆さん……ありがとうございます!」 そして、アインハルトの顔に少しだけ光が戻って、感謝の言葉を告げた。それでも、まだアインハルトは笑顔を取り戻さない。 一刻も早くスバルを助けて、アインハルトと一緒に笑い合っているところを見たいとなのはは思った。 「本郷、私達もそのスバルという子を捜そう……志葉屋敷に向かう途中で見つけたら、何としてでも救ってみせる」 「そうか。なら、俺達はここでもう少し身体を休めたら君達の後を追う。どうか、気を付けるんだ」 「ああ、言われるまでもない」 猛に頷いた流ノ介はこちらに振り向いてくる。その視線を受けて、なのはといつきは荷物を持って、備え付けられた椅子から立ち上がった。その時だった。 「誰か、助けて!」 ホテルの扉が乱暴に開かれて、六人の意識がそちらに集中する。 甲高い悲鳴を響かせながらホテルのロビーに飛び込んできたのは、いつきやまどかよりも年上に見える少女だった。 腰にまで届く青い長髪はぼさぼさになっており、スタイルのいい身体に纏われている中華風の服は乱れ、ほんの少し大人っぽい表情は恐怖に染まっている。 「君、一体どうしたんだ!?」 膝が崩れ落ちて転びそうになる少女に反応したのは、猛だった。彼は少女の肩にそっと両手を置いて、ゆっくりと支える。 猛に続くように、なのは達五人も急いで駆け寄った。 「そんなに慌てて……何があったんだ!」 「た、助けて……!」 震えている少女は瞳から涙を滲ませながら、その白い手で猛が着ている上着の袖を握り締める。 「恐ろしい奴らに追われて、殺されそうになったの……!」 「殺されそうになっただと!? 一体どんな奴だ!」 「それは、それは……とても恐ろしくて卑怯な奴らだったの……! 平和のために戦うって言ってあたしの仲間みんなを騙して、殺したの……!」 「何だと……!?」 猛の表情からは少女に対する思いやりが感じられるが、それと同時に烈火のような怒りが燃え上がっていた。 それを見て、なのはは思わず固唾を呑む。 「まさか、君を襲った奴らというのはすぐ近くにいるのか?」 「うん……! みんなのおかげで何とか逃げ出せたんだけど、すぐに来るかもしれないの! みんなを殺した、プリキュアの奴らが!」 「プリキュアだって!?」 少女がそう言った瞬間、猛の横を割り込むようにいつきが目を見開きながら前に出た。 「君、それは一体どういうことなの!?」 「どういうこと……って、プリキュアの奴らがあたし達を……!」 「プリキュアがそんなことをするはずないよ! みんなを守るために戦うプリキュアが、誰かを襲うなんてありえない!」 「で、でも……あたしは確かに……!」 「お願い、教えて! 君に一体何があったのかを!」 猛から引ったくるように少女の肩を掴んで揺さぶり、必死の形相で叫ぶ。それはさっき見た冷静ないつきの表情とは大きくかけ離れていた。 そんな彼女の肩を猛はそっと叩く。動揺していたいつきは猛と目を合わせると、すぐに落ち着きを取り戻した。 「待て、落ち着くんだいつき」 「あっ……! その、ごめんなさい……本郷さん」 「いや、君の気持ちもわかる。俺だって、同じ仮面ライダーが殺し合いに乗ってると言われたら平静ではいられないかもしれない。それよりもだ……」 いつきを冷静に諭しながら少し距離を離れさせた猛は、少女の方に振り向く。その瞳には未だに優しさが感じられるも、猜疑心が混じっていた。 「話を聞かせて貰おうか。プリキュアが君達を襲ったとは、本当なのか?」 「それは……本当です! プリキュアのせいで、みんなが……!」 「だが、いつきはプリキュアがそんなことをするような存在ではないと言っている……これはどういうことだ?」 「それは、その……あたしは……嘘なんて……!」 猛の鋭い視線を前に、少女の答えはどんどんしどろもどろとなっていく。蹌踉めきながら後退る彼女は目が泳いで、次第に息も荒くなっていた。 震える吐息の音がロビーに響く中、白い肌からどんどん汗が噴き出ていく。この状況なら動揺してもおかしくないかもしれないが、それにしてはあまりにも後ろめたいように見えた。 でも、まともに話ができないほど追い詰められたのかもしれない。そう思ったなのはは話をするために一歩進んだ瞬間、少女と目があった。 「……なのは……さん?」 「えっ?」 そして唐突に名前を呼ばれたことで、なのはは思わず呆けてしまう。 時系列順で読む Back 野望のさらにその先へNext 変身超人大戦・危機 投下順で読む Back 野望のさらにその先へNext 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) 本郷猛 Next 変身超人大戦・危機 Back 魔獣 沖一也 Next 変身超人大戦・危機 Back nothing(後編) 明堂院いつき Next 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) ノーザ Next 変身超人大戦・危機 Back nothing(後編) 高町なのは Next 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) スバル・ナカジマ Next 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) アインハルト・ストラトス Next 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) 鹿目まどか Next 変身超人大戦・危機 Back 捲られたカード、占うように笑う(後編) ズ・ゴオマ・グ Next 変身超人大戦・危機 Back nothing(後編) 池波流ノ介 Next 変身超人大戦・危機 Back 二百年野望 筋殻アクマロ Next 変身超人大戦・危機
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3449.html
―――9 クラナガン市第11区ホルテンマルス通り。 陸上部局機動一課第18師団226陸士部隊は、スィンドル及びドロップキックなどのドローンたちと、文字通り死闘を演じていた。 胸部の砲塔を展開して次々と砲弾を撃ち込んでくるドローン部隊に対して、陸戦魔導師たちはバリアやシールドだけでなく、時に素早く移動し、 時に建物や車を盾代りにして攻撃を避ける。 そして、砲撃が止むのと同時に部隊全員の攻撃魔法をドローン一体に集中させて確実に倒して行くという、ゲリラ戦的な方法で本局ビル方面 へ侵攻するドローン部隊を足止めしていた。 しかし、ドローン部隊と陸士部隊の火力と装甲の差は如何ともし難く、陸士部隊は後退に次ぐ後退を強いられていた。 「くそっ、何なんだあいつらは!!」 ワゴン車の陰に隠れている、恐竜のような顔立ちのと鱗の肌をした陸士が、デバイスにカートリッジを装填しながら悪態をついていた。 「何が大型ガジェットドローンだ、車に変形する人型GJなんて見たことも聞いた事もねぇぞ!」 その隣でベルカ式ポールスピア型デバイスを構えた、脳が見える透明の頭をした三本指の陸士が、攻撃が止んだのを機に頭を少し上げると、 ドロップキックがこちらへ砲口を向けるのが見えた。 「おい、逃げろ!」 仰天した表情の陸士が、同僚の腕を引っ張って歩道へ逃げ出すのと同時に砲弾が車を襲い、直撃を受けた車が大爆発して路上を転がって行く。 路地に伏せて爆発を避けた、鶏冠のついた四本の大きな皺の走った頭をした指揮官を務める陸曹は、陸士二名を路地に呼び寄せると、回復した ばかりのモニターに向かって怒鳴りつける。 「こちら陸士226部隊、これ以上は持ち堪えられそうにないぞ! 増援はどうしたんだ!?」 モニターの向こうでも、通信担当の士官が、同じくらい大きな声で怒鳴り返してきた。 「現在EW-TT隊がそちらに急行している、もう少し我慢してくれ!」 「了解した!」 陸曹はそう言ってモニターを切ると、懸命に闘っている部隊へ振り向いて笑いながら声と念話の両方で呼びかける。 「応援が来るぞ! 後ちょっとの辛抱だ、踏ん張れ!!」 その言葉に力を得た魔導師は、了解の意を示す陸士部隊共通の掛け声を一斉に上げた。 「ウーオッ!」 戦車に蜘蛛のような多関節脚を六本くっ付けたような形の、“歩行戦車型アインヘリアル(Einherial Walking―Tank Type 略称EW-TT)” 五両は、本局ビルNMCCより指示のあった場所へ急行しつつあった。 「前方に爆炎を確認!」 前席の、亀の甲羅のような頭に虎の様な牙を口から生やしたパイロットからの報告に、穴のような耳と肩に棘を生やした、部隊長を務める一尉の 階級章を付けた士官がペリスコープ用のモニターを開く。 すると、ロボット軍団と追い詰められつつある陸戦魔導師部隊の激しい攻防戦が、目の前に映し出された。 「ありゃ一体何だ?」 今まで見た事のない人型ロボット兵器に、車内の乗員がざわめき始める。 「落ち着け!」 部隊長が周囲の窘めるように大声を上げる。 効果覿面。その一喝に、車内のざわめきが水を打ったように静まり返った。 「何であれ目の前の敵は叩き潰す、只それだけの事よ! カートリッジロード!」 一尉の指示に、砲手が155ミリ砲弾サイズのカートリッジを砲型のデバイスに装填すると、EW-TT車体真下の路面に、ミッド式魔方陣が展開 される。 「来たぞ! 増援部隊だ!!」 EW-TTを見た陸士が仲間たちに大声で呼び掛けると同時に、隊長の眼前にEW-TTから空間モニターが開かれる。 「こちら機動一課 第89師団 陸士209部隊 重魔導車両部隊だ。これから敵GD部隊に対して攻撃を行う、至急後ろに退ってくれ」 連絡を受けた陸士部隊は、ロボット軍団に対して牽制の攻撃魔法を放ちながら、EW-TTの後ろへ後退する。 「陸士部隊の後退完了、目標までの距離、約百五十百メートル!」 土偶のような、縄のよれたような皺だらけの顔に、上唇にサーベルタイガーのような二本の牙を持つ観測手兼砲手の報告を受けて、一尉は矢継ぎ 早に部隊へ指示を出す。 「全隊、照準を本車真正面の人型GD部隊中央に!」 一尉の指示を受けて、EW-TTの全車の照準がスィンドルたちの中央部にセットされる。 こちらに向けて歩行戦車がやって来た事に気付いたドローンは、攻撃目標を目前の陸士部隊からEW-TTに変更する。 「敵部隊より攻撃が来ます!」 砲手から報告を受けた一尉は、即座に命令を下す。 「プロクテション!」 デバイスがフィールドを張るのと同時にスィンドルとドロップキックがEW-TT目掛けて一斉に砲撃する。 だが、砲弾はフィールドに弾かれるか、突き抜けても車体を貫く程の力はなく、虚しく跳ね返るばかり。 「ディバインシューターセットアップ!」 隊長の号令一下、砲手がデバイスのチャンバーレバーを引くと、EW-TTの砲口に紫色の丸い光が現れる。 「ディバインシューター、セット完了!」 砲手の言葉を受けて、隊長はEW-TT全車両に命令を下した。 「撃て(シュート)!」 その声と同時にEW-TT全車からまばゆい光の球が放たれた。 ドロップキックとスィンドルたちは回避行動をとるが、迸る魔力が嵐となってドローンたちを巻き込んで行く。 回避が間に合わなかったドローンのボディを突き抜け、周囲の仲間を巻き込み、吹き飛ばしながら、ディバインシューターはしばらくの間路上を荒れ 狂っていた。 魔力の嵐が収まり、舞い上がっていた誇りが落ち着くと、魔導師たちをあれ程苦しめていた二足歩行の巨大ロボットの大群が、今や物言わぬ スクラップとなって横たわっていた。 「ほう」 メガトロンは腕を組んで感心したように頷きながら言う。 「エネルギーを収束させて、強力な弾丸として撃ち出す…か。ひ弱な炭素生物にしては中々知恵が回るようだな」 「ですが所詮はチビどもの玩具、我々が本気を出せば一捻りですよ」 スタースクリームがそう言って唾でも吐くように口からオイルを飛ばすと、メガトロンは腕を挙げて窘めるように言う。 「その通りだが相手を甘く見過ぎると、思わぬところで足元を掬われるぞ」 メガトロンは次に、マイクロ波による無線通信でクラナガン市街へ呼びかける。 “ボーンクラッシャー” メガトロンから指名された大型の質量兵器用特殊工作トラックは、呼びかけを無視して百キロ以上のスピードで市内を暴走していた。 前方の車を自らの巨体で弾き飛ばし、時には建物に体当たりして崩壊させ、街灯や人間をボウリングのピンのように轢き倒していく。 車体のアームで乗用車を掴み、攻撃魔法を撃ち込みながら追って来る空戦魔導師部隊目掛けて投げつけるなど、傍若無人の限りを尽していた。 “ボーンクラッシャー、聞こえてる筈だ、返事をしろ!” メガトロンからより厳しい口調で詰問された時、ボーンクラッシャーは初めて返事をする。 “聞こえている、何か?” ボーンクラッシャー返事が来ると、メガトロンはクラナガン市街の地図を転送しながら指示を下す。 “敵が戦車を担ぎ出してきた、ドローンどもが苦戦しとるから片付けて来い。 場所は第11区のホルテンマルス通りだ” “了解” ボーンクラッシャーは簡潔に答えると、更に加速して魔導師たちの追撃を振り切り、目的地へと向かった。 NMCCの超大型空間モニターにはクラナガン市街の地図が表示され、市街各所で繰り広げられている陸・空戦魔導師部隊と正体不明のロボット 軍団の戦闘状況が、青と赤の矢印で表示されている。 その周囲を取り囲む無数の空間モニターには、市街戦の映像が映し出されていた。 ロボットからの砲撃を受けた魔導師が、木の葉のように吹き飛ばされるのが映った時、なのははレイジングハートのチェーンを強く握りしめた。 「焦るな」 なのはの焦りを察知したゲンヤが、諭すように言う。 「切り札ってものは、やたらと見せびらかすもんじゃねぇ、ここ一番って時に切るからこそ活きるんだ」 ゲンヤの言葉に頷き、内心の葛藤を必死に闘いながらなのはは答える。 「分ってます、分ってますけど……っ」 今度は長官が冷徹な口調でなのはに言った。 「自分一人で総てを背負えると思っているのか?」 自分でも思い上がりと意識している事を冷静に指摘された事に、なのはの表情が怒りを帯び、口調が自然と荒くなった。 「そんなつもりは……!」 「なのはちゃん!」 はやてがそう言って腕を抑えなければ、なのはは長官に食い掛っていたところであろう。 「も、申し訳ございません…!」 我に返ったなのはは、自分がしでかしかけた事の重大さを悟り、慌てて長官に頭を下げた。 「いや、いいんだ。気にしないでくれ」 長官は笑いながら手を挙げてなのはの謝罪を受け入れると、自分の眼前にあるモニターに目を向けながら小さくつぶやいた。 「私自身も同じ思いだよ、長官としてもっと出来る事があるのでは…? とな。 だが、実際に人手はあまりにも足りなく、示せる選択肢は極めて限られる…。 まったく、この世は思い通りならな事ばかりだな」 この呟きをゲンヤは聞いていたが、彼は何も言わなかった。 デモリッシャーの車輪をかいくぐりながら、チンクは苦内型の固有武装“スティンガー”を続けざまに投げつける。 総てデモリッシャーの顔で炸裂するが、相手は怯む気配すら見せない。 「チンク姉、だめだ。でか過ぎてあたしらの攻撃魔法じゃ埒が明かない!」 「あきらめるなノーヴェ!」 ノーヴェが歯ぎしりするノーヴェを叱咤するが、チンク自身も口の中で小さく呟いた。 「とは言え、こちらも手詰まりか…」 “チンク姉、聞こえる?” ディエチから念話で呼びかけられたチンクは、デモリッシャーの攻撃圏から一旦離脱し、等距離を取って監視しながら返事する。 “どうしたディエチ?” チンクからの問いかけに、まるで躊躇うかのように少し間が空いた後、ディエチが念話を再開する。 “あの化け物は…悪いけど、多分私達の手には負える相手じゃないと思う” チンクも悔しそうに歯噛みしながら、ディエチの意見に同意する。 “そうかも知れん、だが他の部隊も手が回らない以上、我々だけで対処するしか…” その返答を予期していたのだろう、ディエチからの返答はチンクの考えを首肯しながら、自分の考えを伝えるものだった。 “うん、そうだね。それで…倒せなくても、もしかしたら動きを封じる事が出来るかも知れない。 チンク姉、そいつを何とか海側におびき寄せられない?” “難しい事を言ってくれるな…” チンクは苦笑しながらも、ディエチに了承した旨を伝える。 “分かった、何とかやってみる” チンクが答えるのと同時にデモリッシャーの後頭部が開き、中から数十発のミサイルが一気に発射された。 「いかん! 全員散開!!」 それを見たチンクが大声で指示を出す。 空へ上がったウェンディとチンク、そして地上を全力で疾走するノーヴェ目掛けて、ミサイルが獲物に群がるピラニアの如く追ってくる。 「誘導弾ッスか!」 逃げ切れないと悟ったウェンディは、振り向くとISを起動させる。 “フローターマイン” デバイスが声を発すると、ピンク色に光る数十個の魔力球がウェンディの前にカーテン状に展開される。 ミサイル群が突き抜けようとすると、球は一斉に爆発を起こし、そこにまともに突っ込む形なったミサイルも全弾誘爆を起こした。 「ウェンディ、無事か?」 スティンガーでミサイルを防いだチンクが、ウェンディの横で並列飛行しながら尋ねる。 「大丈夫ッス!」 ウェンディが親指を挙げて笑顔で返答するのを確認すると、チンクは次に地上へ眼を向ける。 「ノーヴェは?」 それに応えるかの様に、エアライナーに乗ったノーヴェがこちらへ向けて昇って来るのが、二人の眼に写った。 「敵GD部隊、完全に沈黙!」 砲手と各車両から同じ報告を受け取った部隊長は満足げに頷く。 「ここからもっとも近い戦場はどこか、本局に問い合わせてくれ」 指示を受けた通信士が本局と連絡を取り始めた時、運転士のモニターに突然“未確認車両接近中”という警告が表示された。 「隊長、前方より所属不明の車が一台近付いて来ます」 運転士は自分のモニターの映像を、部隊長のところに転送する。 そこには、危険物処理や災害現場の後片付け用に陸士部隊へ配備されている大型特殊車両が、ドローンの残骸を掻き分けながら近付いて来る のが映っていた。 「こちらは機動一課 第89師団 陸士209部隊所属の重魔導車両部隊である、貴方の所属を知らせよ」 EW-TTからの問いかけに返答せず、特殊車両は無言のまま近付いて来る。 「全車、ディバインシューターセットアップ!」 指示を受けたEW-TT全車の足元に、ミッド式魔方陣が再び展開される。 「撃て!」 ディバインシューターが発射されると、特殊車両は弾道を予測したかのように、反対車線へ移動して、魔力弾の直撃を避ける。 先程だったら、直撃しなくとも衝撃波で吹き飛ばされる筈だが、特殊車両はそんなもの存在しないかのように、悠然と走っている。 「なにっ!?」 その様子を見ていた部隊長が驚きの声を上げる。 まるでそれを合図としたかのように、特殊車両は急加速してEW-TTとの距離を瞬く間に詰めてくる。 「全車後退!」 部隊長がそう怒鳴るのと、特殊車両が変形を始めて“デストロン軍団破壊兵ボーンクラッシャー”の正体を現したのは同時であった。 ボーンクラッシャーは、今や巨大な拳と化した障害物及び危険物除去用のアームを上から叩き付け、一両目のEW-TTをまるで蠅でも叩くかの ように苦もなく潰す。 潰した車両を掴み上げると、左側のEW-TTに叩き付けて横にひっくり返し、次に正面の三両目に投げ付けて擱座させる。 「ディバインバスター準備!」 目まぐるしく変わる状況に、部隊長は覚悟を決めた表情で指示を下す。 四両目を撃破したボーンクラッシャーが隊長機を掴んだ瞬間、部隊長は攻撃命令を出した。 「撃て!」 零距離で撃ち出された砲撃がボーンクラッシャーを直撃、まばゆいばかりの閃光と埃が舞い上がり、辺りを覆い尽くす。 車内の全員が固唾を呑んで見守る中、埃が晴れて来ると、EW-TTの必死の反撃を嘲笑うかのようにボーンクラッシャーが悠然と立っていた。 「そんな…!」 部隊長が絶句すると同時にボーンクラッシャーが再びEW-TTを掴んで軽々と持ち上げる。 車内の乗員は全員シートベルトを付けていたので放り出される事はなかったが、突然天地がひっくり返った事に恐慌を来たす。 ボーンクラッシャーは車両を軽々と持ち上げると、路上で民間人を退避させていた陸士部隊目掛けて放り投げた。 「こちらボーンクラッシャー。邪魔者は総て片付け―――」 結果は見るまでもないと判断して報告を始めたボーンクラッシャーは、いつまでも重車両が路上に激突する音が響かない事に不審を抱き、途中で 報告を止めて振り返った。 先程までドローン達と戦っていた魔導師部隊は、EW-TTが後を引き継いで以降通りに残って戦闘を眺めていた民間人の避難誘導を行っていた。 ボーンクラッシャーが車両部隊を潰し始めると、隊長は民間人の避難と同時に、手の空いた陸士達を、破壊された車両の乗員の救助に向かわせ ようとするが、その暴れっぷりに近づく事すら出来ない。 このままでは自分達もやられる。 そう判断した隊長は民間人の避難が完了次第、陸士達も退却するよう、断腸の思いで命じる。 最後の家族連れを連れて隊長達が退避しようとした時、ボーンクラッシャーが放り投げた車両が、こちらへと飛んで来るのが見えた。 「逃げろ!」 呆然として動けない家族連れと部下達に怒鳴りながら、我が身を犠牲にする覚悟で隊長はプロテクションを展開する。 その時、彼の横を猛スピードで人影が横切り、跳び上がるとEW-TTに飛び付いた。 路上に十数メートルの擦過痕を残し、重戦車並の重さのEW-TTを人影は一人で受け止めながら、隊長達の眼前で停止する。 白のジャンパーと短パン型のバリアジャケットに、ローラーブーツにハンドガード型のデバイスを装着した人影は、隊長に振り向いて尋ねる。 「機動五課 第58師団 陸士556部隊所属のスバル・ナカジマです。怪我はありませんか?」 問い掛けに隊長が頷くと、スバルはモニターを開く。 「シャマル先生、スバルです。第11区ホルテンマルス通りで民間人数名と陸士部隊を救助。負傷者もいる模様です。至急後方への搬送をお願いします」 「分かったわ。今、そちらに向かうから」 モニターから声がすると同時にスバルの横で緑色に輝く鏡が出現し、中から緑のロングドレスのバリアジャケットを着たシャマルが出て来た。 「次元部局タイコンデロガ医務官のシャマルです。皆様、こちらから避難して下さい」 シャマルの指示に従って家族連れは鏡の中へと入って行き、一方スバルはEW-TTのドアを力任せに引き開ける。 「大丈夫ですか?」 スバルの呼び掛けに、部隊長がシートベルトを外しながら答える。 「私は大丈夫だ、だが、部下が…」 スバルと部隊長が怪我をした乗員を外へ運び出していた時、砲弾が頭上のビルの壁を穿ち、破片が擱座したEW-TTの車体に降りかかる。 攻撃のあった方をスバルが見ると、新たにやって来たドローンたちが、砲撃しながら近付いて来るのが見えた。 「シャマル先生、敵GD部隊は私が食い止めますので、怪我人をお願いします」 スバルがそう言うと、シャマルがEW-TTの所へ駆けて来る。 「言っとくけど、危険と判断したら即座に撤収しなさい」 シャマルの言葉に、スバルは敬礼で返した。 EW-TTからこちらへ向かって来るスバルに、ドローン達は砲口を向ける。 雨あられと撃ち込まれる砲弾をスバルはジグザグ運動で回避し、通りの左端に立っていたスィンドルの足元に蹴りを入れて仰向けにひっくり返す。 隣にいたドロップキックが砲撃するが、スバルは跳び上がってそれを回避し、弾は倒れたスィンドルを木っ端微塵に吹き飛ばす。 スバルはそのままドロップキックの肩に飛び乗ると、背中をナックルダスターで殴り付ける。 後ろからいきなり強く突き飛ばされる形になったドロップキックは、砲を乱射しながらグルグル回り、周囲のドローンを次々とスクラップにしていく。 背中にいるスバル目掛けて、ドローン達が一斉に飛び掛かる。 レッゲージがドロップキックの背に飛び付き、ニ体は縺れ合って路上に倒れる。 しかし、その時にはスバルは再び宙を舞っており、スィンドルの頭上に降り立つと脳天にリボルバーキャノンを叩き込んで粉々に粉砕する。 火花を放ち、身体を小刻みに震わせながら倒れたスィンドルの上に、スバルは悠然と降りる。 後方から別のドローン達がやって来て砲口を開いた時、ボーンクラッシャーがその内の一体を拳で殴り倒す。 “手を出すな! こいつは俺の獲物だ!!” ドローン全員に無線で命令すると、ボーンクラッシャーはスバルへ挑むように、真正面から対峙する。 ドローンを殴った事と威圧感たっぷりに睨み付ける姿。 相手をガジェットドローンと同様の自動兵器と考えていたスバルは、そのあまりに人間的な反応に違和感を覚える。 と、ボーンクラッシャーはスバルに考える暇を与えさせないかのように、足元に転がっていたドローンの残骸を持ち上げて投げ付けてくる。 スバルは盛大なスキール音と共に急発進して残骸を避けると、走りながらカートリッジを再度装填する。 次々と投げられて来る残骸を左右やジャンプして避け、時には真正面に来たものを殴り落としながら、スバルはボーンクラッシャーへと迫る。 ボーンクラッシャーの方も路面の舗装を盛大に巻き上げながら急発進する。 進路上にある残骸や瓦礫を弾き飛ばしながら、ボーンクラッシャーは鉤爪をスバル目掛けて振り下ろす。 スバルは左にステップして回避するが、そこへボーンクラッシャーの右拳が襲ってくる。 それに対してスバルは拳の来る方向に身体を捻らせて攻撃を受け流し、勢いを殺さずに裏拳を肘の辺りに叩き込む。 勢いを流された上に攻撃をまともに受けたボーンクラッシャーは、バランスを崩して横向きに倒れ、その際拳が左側にあるオフィスビルの壁面を破壊する。 スバルは後退して、降って来る建物の残骸を避ける。 埃が濛々と巻き上がって姿が見えなくなったボーンクラッシャーに向けて、スバルは警告する。 「こちらは時空管理局陸上部局機動五課第778師団陸士71部隊所属のスバル・ナカジマです。 当該大型GDに搭乗しているパイロットに警告します、直ちに武装を解除し、GDより降りて降伏して下さい」 次の瞬間、土煙の中からボーンクラッシャーが飛び上がり、スバルの目の前に降り立つ。 「クソ喰らえだ! 止められるもんなら止めてみやがれ!」 中指を突き立て、ミッドッチルダ語で挑発するボーンクラッシャーに、スバルは面食らった表情で素っ頓狂な声を上げる。 「しゃ、喋った!?」 ボーンクラッシャーは、唖然とするスバルを嘲笑う。 「お前らの言葉で話した事がか? 俺に言わせれば、手前ェら単純な炭素生物が言葉や道具を使う方が驚きだがな!」 スバルはその挑発には乗らず、相手がどんな動きを見せてもすぐ対応出来るように、構えを取る。 そんなスバルの様子に構わず、ボーンクラッシャーは言葉を続ける。 「スバル・ナカジマと言ったな? 冥土の土産に教えてやるぜ、俺はデストロン軍団破壊兵ボーンクラッシャーよ! よぉーく覚えとけ!!」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1771.html
◇ ◇ ◇ ……燃え盛る炎の中、一人の少女が泣いていた。 逃げ遅れ、取り残された彼女の背後で、何かがひび割れるような音がする。 そこにあるのは、巨大な女神像。それが熱に炙られ、今まさに少女の上に倒れ込もうと…… 「あぶねぇ!!」 轟音、宙に浮く感触。 気が付くと少女は、一人の男の腕の中にいた。 巌(いわお)の如く鍛えられた胸板と、その奥にたぎる熱き魂。ややあって、その男、いや漢が、女神像を鉄拳で粉砕し、自分を助けたと理解する。 「あ、ありがとうございます!私、スバル・ナカジマと……」 少女、いや、スバルの自己紹介に漢も名乗り返す。 「俺は天花寺(てんげいじ)大悟。日本人だ!」 『ダブルクロス・リリカル・トワイライトStS 天からの快男児』 夜空に走る、一筋の魔力光。 二人の要救助者、スバルと大悟を抱えた高町なのはがゆっくりと舞い上がり、そして安全地帯に降りてきた。 「メーフィッフィッ!流石の高町君も、天花寺君を抱えて飛ぶのは辛かったようじゃな」 軽口を叩きつつ、待機していた老医師がスバルを受け取り、手当を始める。 その体の秘密に気が付きはしたが、特に何も言わない。この場では。 「あ、テンゲイジさん、でしたか?」 「大悟でいいぜ」 「では大悟さん、何故、あの場所に?」 「何故って……困っている人を放って置けない質でな。ま、面倒は嫌いなんで、俺は行かせて貰うぜ」 「え!? あ、大悟さん!色々と、お話を聞かせて貰いたい事が……」 「話す事なんかないさ。後ドクター、変な事するなよ?」 去っていく大悟を止めようとしたなのはを、更に老医師が引き留める。 「細かい事は気にするだけ無駄じゃよ。何故ならあ奴は、快男児じゃからな」 「……先生、彼の事を知ってるんですか?」 問われた老医師は、懐かしむようにぽつりと、 「昔、人の道を外れたワシに、償いをしろ、とな……」 そしてスバル。彼女の幼き心にその背中は焼き付き、 「私も、強くなりたい!」 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3334.html
スバル・ナカジマはその日、最高に浮かれていた。訓練後だというのに息を切らして、病院へと走る。手に握りしめたカードは、ティアナのデバイスであるクロス・ミラージュ。 スバルも同席するという条件で、持ち出しは許可された。難しいかと思ったが、なのはもシャーリーも意外にもすんなりと快諾してくれた。 ティアナからの頼みだと聞くと、なのはは困ったような、寂しいような、複雑な顔をしていたが。 病院の玄関を通り、一直線にティアナの病室へ。少し遅れてくるというエリオとキャロには差し入れを頼んでおいた。 自分は一分でも一秒でも早くティアナにクロスミラージュを会わせたかった。 「ティアー、クロスミラージュ持ってきたよ……って、あれ?」 ドアを開ければすぐにベッドが目に入る。しかし、いつもそこにいるはずのティアナの姿がない。これは初めてのことだった。 てっきりティアナも早く対面したいだろうと思ったのだが。 室内に入り、見回しても姿はない。 「どこ行っちゃったんだろ……出かけてるのかな」 沈黙すると微かに音が聞こえる。これまで声で掻き消されていた小さな物音は、入り口横の個室からだった。そこにはトイレと洗面台が備え付けられている。 「ティアー、いるの?」 といっていきなり入るわけにもいかず、ノックをするが返事はない。しばらく耳を澄ましていると、蛇口から水の流れる音が延々と続いている。 その音に隠れたほんの僅かな声をスバルは聞き逃さなかった。 正確にはそれは声というより、喘ぎ。誰に対してでもなく、ひたすら荒い呼吸音が繰り返される。 「ティア!? 大丈夫!?」 鍵は掛かっていなかった。思い切って扉を開け放つと、ティアナは洗面台の横で座り込んでいた。こちらに気付いた様子も無く、俯いて肩を上下させている。 「ティア!!」 「……スバル?」 跪いてティアナの肩を揺すると、小さく返事を返した。 肩を掴んだだけで異常な熱が伝わってくる。喉が乾いて水を飲みに来たが、途中で力尽きたのだろう。 「待ってて、今人を呼んでくる!」 「やめて!!」 立ち上がろうとしたスバルの服をティアナが掴んだ。どこにこんな力が残っていたのか、不思議なくらいの強い力で。 横顔は真っ赤に上気し、全身にびっしょりと汗を掻いている。呼吸は未だ治まらず、それでも掴む手は緩めない。 スバルはその場に縫い止められた。それは腕力によってではない。彼女の発した叫びが、動くことを許さなかった。 「スバル……傍にいて。さっきから見えるの……ずっとあたしを見てる」 「ティア……」 「融合体が……デモニアックがずっと……! あたしを笑ってるの……!」 「ティア!!」 服を掴む手は小刻みに震えていた。背中合わせに戦ってきた彼女が、背中を預けてきた彼女が、今はこんなにもか細く怯えている。 ひょっとしたら、あの日の記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。ただ自分が気付いてやれなかっただけで、これまでも何度もあったのかもしれない。 それが無性に切なくて、瞳から涙が零れた。思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる。そして自分が付いていると言ってあげたくなる。 でも駄目だ、それでは何の解決にもならない。大事だからこそ、このまま放ってはおけない。 スバルは大声で人を呼ぶ為に、息を吸い込んだ。 突然掴まれた手が動き、直後に身体が引き倒され天井が映る。掴む力より更に強く、不意を突かれたこともあって抵抗もできなかった。 ティアナが馬乗りになり、首に手が添えられる。細い指がゆっくりと滑らかに絡みつく。 その光景はどこか現実味に乏しく、金縛りになった。 「ティア……どうして……?」 荒い息も、体の震えも変わらない。なのに、ティアナの纏う雰囲気は別種のものに変わっている。 これまで感じたことのない異質な気配。目の前の少女は自分の知るティアナではないように思えた。 包帯の下の目を窺うことは叶わず、その目が何を見つめているのかは分からない。 「どうして? ねぇスバル……あんた、あたしに何か言うことがあるんじゃないの?」 吐息混じりの一言がスバルを撃ち抜いた。目が見開かれ、表情が強張る。 思い当たることは一つしかない。それはずっと胸に秘めていたこと。それを見抜かれた驚きで、スバルの心は大きく揺さぶられた。 本当は、ティアナが目を覚ましたあの時、最初に言うべきだった。何度でも懺悔して許しを請うべきだった。そうすればこんなことにはならなかったのに。 実際、ティアナの前でこそ平静を装っていたが、毎日病室を訪ねる前に深呼吸をしていた。 自分が奪った彼女の夢は両手に余るほど重く、謝罪は鉛のように胸に沈んで出てこなかった。 日に日に重みを増す罪悪感。責めてくれれば楽もなっただろうが、彼女は自分を労ってくれさえした。 彼女はきっと気付かない。いつも自分が、彼女の眼を覆う包帯を直視できなかったことに。そして今、それは目の前にあった。 ティアナの指に力が入り、首が絞められる。スバルは抑えていた手でティアナの手を撫でた。 こんなことは自己満足に過ぎない。彼女を救うことにはならない。でも、この手を振りほどくこともできそうにない。それがティアナの答えなら、甘んじて受けようとさえ思う。 「あたしの……」 ティアナに応え、スバルの弾丸も装填される。 それは他でもない、自分自身を撃つ為の銃弾。もう逃げることは許されない。たとえ、それが心を砕いたとしても。 ※ 何か言いかけるスバルに、ティアナはゆっくりと力を掛けていく。抵抗しようと思えば簡単なはずなのに、彼女は受け入れようとしている。 それを俯瞰的に見ているもう一人の自分がいた。それは完全に乖離した存在ではなく、あくまで同じもの。冷静でいようとしている自分だった。 冷静な自分は今も叫び続けている。 (馬鹿スバル! 早く逃げて!) スバルを認識した途端、身体と心の制御が利かなくなった。融合体の姿がスバルと重なり、沸々と熱いものが込み上げ、被害妄想と強迫観念が自我を歪めていく。 それを見つめる自分は、封印していた闇が曝け出される痛みに悲鳴を上げている。 それは心の奥深くに確かに眠っていたもの。それ故に恐ろしかった。暴走し、増幅された怒り、憎しみ、嫉妬がスバルを殺めようとしていることが。 (馬鹿! なんで! なんでそんな……!) スバルは子供をあやす様に優しく手を撫でる。それが意味するものは分からないが、彼女が何かを受け入れ、諦めていることは理解できた。 瞼の裏で融合体が踊る。愚か者二人がすれ違い、食い違う様が最高に楽しいとでも言うかのように。 たとえ幻でもそれが我慢ならなかった。自分の人生を歪め、最も見せたくないものを最も見せたくない人に見せる、最悪の拷問。 胸の中からどす黒い炎が燃え上がる。それは、これまで冷静でいようとした自分すら呑み込み、そして狂っていく。 融合体の姿がスバルに完全に重なった時。 ティアナの口は"ティアナ自身"に止めを刺す為に言葉を紡ごうとしていた。 「あんたの……!」 ※ 上下に向き合う二人。しかし、ティアナはスバルを、スバルはティアナの目を見ることはない。 互いの目に映るのは、相手ではなく自分。ティアナは瞼の裏で蠢く無数の融合体の中に、スバルは罪の象徴であるティアナの目を覆う包帯に、それぞれ目を背けてきた鏡像を見つけた。 ティアナにとってそれは、絶対に言いたくなかった言葉。言えばスバルを傷つけ、自身の醜さと弱さを露呈することになる。 それでも、その言葉は心の底で澱のように凝り固まって、スバルから寄せられる優しさでも溶けることはなかった。 スバルにとってそれは、言わなければならなかった言葉。でも言えなかった言葉。沈黙の理由を問われた時、その言葉を肯定された時、この関係は壊れてしまう。 何度病室に通っても言い出せず、どれだけ献身的に尽くしても罪悪感は消えなかった。 言ってしまえばもう戻れない。言葉は矢となって突き刺さり、鎖となって心を縛る。例え相手が許したとしても、自分自身を決して許せなくなる。 それは呪詛。沈黙、吐露、どちらを選ぼうとも苦しみ、己を苛むことになる呪い。そうと知っていても止められない。胸の内に渦巻く激しい感情の波に飲み込まれ、 急きたてられ――そして呪いは放たれた。 「あんたのせいで……!」 「あたしのせいだ……!」 二度と引き返せない決別の台詞は、二人、計ったように同時に放たれた。 一度堰を切ってしまった思いはもう止められず、荒れ狂いながら全てを押し流していく。 「あんたのせいであたしの目は……!!」 「ごめん……あたしのせいでティアは……! 本当にごめんなさい……!」 それきり言葉は途絶えた。水の流れる音と、ティアナの吐息、スバルのしゃくりあげる声、それだけだった。たったそれだけでも、二人はお互いの言いたいことを痛いほど理解していた。 どれだけ嘆いても時は戻らない。だが、止められなかった。諸刃の剣で傷つけ合う行為に意味などないと分かっていても。 ※ 膠着は長くは続かなかった。やがてティアナに限界が訪れる。 ドクンと胸の奥深くが疼く。心臓が更なる暴威を以て胸を締め付ける。血液が沸騰しているのではないかと思うほど身体を巡る熱は高まり、 渇いた喉からは呻きすら出てこない。犬のように舌を突き出し、必死に酸素を取り込もうと喘ぐ。 体中の細胞が作り変えられていくのを感じる。全身を襲う痛みは目を抉られる比ではない。 皮膚が張り裂け、肉を食い破って何か別の生き物が体内から生まれようとしている気がした。 全ての自分が焼き尽くされていく感覚。激しい頭痛で思考はままならず、視界が赤く染まり、無数の融合体がケタケタと声を上げてティアナを嘲笑する。 それら全てが相まって、比喩でなく発狂を予感させた。 ※ 「ティア……ごめん」 掛けられる言葉は無く、ただ名前を呟く。どんな言葉でもティアナを救うには至らないだろう。 それが何に対しての謝罪なのか、最早分からない。人を呼ぼうにも、身体が動かないことか。苦しみを和らげてやることすらできないことなのか。 そもそも彼女が自分を庇ったことか。或いはその全てなのか。 意識が朦朧とし、視界がぼやける。喉を締め付ける力は増すばかりで、とてもティアナの力とは思えない。 残された力でそっと右手を伸ばし、ティアナの頬に触れる。その腕も凄まじい力で握られ、立てられた爪が食い込む。それでも撫でる手は止めない。 彼女の痛みは想像するしかないのがもどかしい。分かるのは何かにしがみつかないと耐えられない苦しみだということだけ。 できることなら代わってあげたいと思う。その原因を作ったのは自分だから。せめてこれで彼女の痛みの何分の一かでも自分に刻まれればいい。 抗おうとする身体を意志で捩じ伏せ、意識を失うまで、スバルはずっとティアナを見つめていた。 ※ 後悔も激情も完全に消え去り、残ったのは痛みと苦しみ。じきにそれすら麻痺していく。このまま死ぬか狂ってしまえば解放されるのだろうか。 緩やかに消えていく意識に触れるものが一つ。とうに触感も無くなっているのに、それだけは感じられた。 それは以前にも悪夢から救い出してくれた手だった。 その手を握る。固く強く握って、絶対に離れないように。離れればもう二度と帰れない気がした。 手は無意識を漂うティアナを導く。向かう先には光が見えた。光は膨らみ、その中へと入っていく。 ずっと待ち望んでいた。悩み、苦しみ、それでも渇望し続けた光。自分はようやく帰ってこれた。これで戻れる、取り戻せると思った。 眩い光が目を刺激する。これまで形容できなかった光は、気づけば蛍光灯の光に変わっていた。滲むようだった視界は徐々に鮮明に変わっていく。 まだ実感が湧かないが、地獄のような悪夢から自分は現実に立ち帰っていた。あれほど苦しかった身体は嘘のように楽になっている。 そして、現実に帰ってきても手が消えていないことに気付く。左手に伝わる感触――自分を導いてくれた優しい手。これのおかげで帰ってこれたのだ。 やがて完全に光に慣れた目に、最初に飛び込んだもの。 それは自分の右手の下で動かなくなった優しい手の主。 目が見えるようになった暁には極上の笑顔を見せてくれるはずだった、スバルの姿だった。 ※ おかしい。そんなはずはない。そんな言葉が最初に浮かんだ。 混乱し、纏まらない思考を必死に整理していく。まず自分は薬を飲んだ。そして水を求めて洗面所へ――駄目だ、ここから先が思い出せない。 誰かが来た気がする。多分、自分にとってとても大事な人物。 「……スバル!」 ティアナは全てを思い出した。スバルに馬乗りになり、首を絞め、そして責め立てたこと、その全てを。 すぐさまスバルから降り、肩を掴んで身体を揺らす。脱力したスバルは人形のように首をがくがくと揺らすだけで、目を覚ます様子はない。 (まさか――) 全身に悪寒が走る。六課に戻れなくてもいい。もう一度、光を失ったとしても――構わない。 スバルを失うことが怖かった。他の何を取り戻しても、対価に彼女を失えば意味がなくなってしまう。 「起きて! 起きてよ、スバル!!」 願いを込めて名前を呼ぶと、微かに呻き声が聞こえた。口に手をかざすと息が当たる。 生きている。生きていてくれた。喜びのあまり身体を抱き締めようとする寸前、ティアナは違和感に気付いてしまった。 まずスバルの肩を抱く手。黒いグローブが嵌められている。BJのものと見た目は近いが、それは肘の辺りまでをすっぽりと包んでいた。 自分はいつの間にこんなものを付けたのだろう。記憶を辿ってみても、やはりそんなことはしていない。 見た目はグローブであるにも関わらず、触感は皮膚に近い不思議な感触だ。 続いて声。ヘルメットやマスク越しのようなくぐもった声に聞こえる。そのくせ、エコーが掛かったように不自然に響く。 もう何度目か、急速に不安が膨らんでいく。ざわめく胸を押さえても柔らかさはなく、早鐘を打っているはずの鼓動は感じられない。 鎧のようでもあり、甲殻のようでもあり、ざらついて乾いている。 ティアナはふらつきながら立ち上がり、正面を見据える。そこにはいるはずのないものが立っていた。 「なに……これ……」 数秒間、思考が止まった。 色合いを濃くしたオレンジの髪は後ろへ放射状に流れ、ライオンのたてがみを思わせる。 双眸は左右に鋭く吊りあがり、明らかに人とはかけ離れている。瞳の色は髪よりも濃い朱。髪の色、鼻から下を覆うマスクと合わせて燃え盛る炎のようでもあった。 上半身には、胸元から体のラインを浮き彫りにする白のドレス。青く発光する線で縁取られている。衣服という感覚は無く、露出した肩と二の腕と同じく質感は硬い。 肌はまるで石像のようで、やはり人のそれではない。 下半身は更に異常だった。スラリとした人間的な上半分と正反対の怪物的な姿。太腿から下は本来の脚より一回りは太く、より鎧に近い。 金属の体毛とでも言うべきか、黒光りする突起に覆われ、尖った爪が並んだ脚は強靭な肉食獣の後肢という印象を受ける。 人のようで人でなく、獣のようで獣でない。通常の融合体とは違うが、紛れもなく融合体である。 瞬間、ティアナは拳を振り上げた。 これが融合体ならスバルを守らなければ、と咄嗟に考えた。或いは、そう考えることで自分を守る為の方便としたかったのかもしれない。 ともかく、融合体目がけて拳を叩きつける。この心を蝕む不安と恐怖が消えることを願って。 結果、融合体は目の前から消えた。しかし同時に、自分の中でも何かが壊れた。 ガラスが割れる音と共に拳は白い壁にめり込み、亀裂を生じさせた。割れた鏡の破片が水に流されて耳障りな音楽を奏でている。 普通の人間ではないスバルを失神させることができたのは、この力のせいだ。あの声も、手のグローブも、それで全てが繋がる。 おそるおそる後ろ髪を触ると、隠れて二本、螺旋に捻じれた角が並んでいた。 全てが理解できた。自分は融合体に――デモニアックになってしまったのだと。 「――――!!」 声にならない叫びが病院中に響いた。しかし、それを悲鳴と思う者はいまい。聞けば誰もが、怪物の咆哮だと恐れるだろう。 発した本人でさえそうだったのだから。 ※ 院内はあっという間に混乱に陥った。原因は突然院内に轟いた咆哮。逃げ惑う人波に逆らって走る少年が一人。エリオ・モンディアルだった。 キャロと共に差し入れを買い、スバルに遅れて病院に来たエリオは、咆哮の時には既に院内に入っていた。幼い顔は途端に精悍に変わり、キャロに先んじて声の元を探す。 階段を駆け上がり、人の流れを頼りにその階を目指す。走りながらも、ティアナの病室に近付いていると感じていた。 違っていてほしいという願いも空しく、ティアナの病室の前に辿り着く。 扉の前には小さな人だかりができていた。異変を感じても、それを確かめる勇気がないのだろう。 「通してください、管理局の魔導師です! 扉から離れて、すぐに避難してください!!」 蜘蛛の子を散らすように人だかりが崩れる。やがて完全に人が消えたのを確認すると、ストラーダを構えて扉を開け放つ。 入り口から見る限り姿もない。しかし水の流れ出る音と、気配から何かがいることは確か。 ゆっくりと入口横の個室を覗き込んだエリオは、思わず声を抑えられなかった。 「スバルさん!!」 瞬時に身体を乗り出す。そこには朱色の髪をした何者かが昏倒したスバルを抱きかかえて立っていた。声に反応して振り向く顔は想像通り、人ではない。 融合体はスバルを手に掛けようと、彼女の首を指でなぞっている。もう片方の左手はスバルの手を握っていた。 言葉よりも動く方が速いと、ストラーダを融合体目がけて突き出す。融合体は抱えていたスバルを背後に突き飛ばし、遅れて自分も回避行動を取るが、 一瞬速くストラーダが右腕を貫いた。 叫びも上げず、鮮血が飛び散るより先に融合体は傷口を押えて、エリオの脇を走り抜ける。下手すると自分でも追いつけない速度で。 爆発的な瞬発力に限っては完全に上回っていた。 エリオが振り向いた時、既に融合体は窓ガラスを突き破って逃走していた。 「エリオ君!」 「僕は融合体を追いかけるからスバルさんを!」 「エリオ君、一人で追っちゃ駄目だよ!」 「でも放ってはおけない。この下は通りなんだ! 大丈夫、無茶はしないから! ロングアーチへの連絡もお願い!」 追いついてきたキャロと一通りのやり取りを済ますと、エリオは窓から通りを見下ろす。民間人の悲鳴は、融合体の逃走経路を示すかのように順番に上がっている。 それを見たエリオは顔を歪め、忌々しげに舌打ちした。 「許さない……! 絶対に許さないぞ、融合体……!」 無茶はしないとキャロの手前は言ったが、守りきれる自信は無かった。今、この瞬間も融合体への怒りが爆発しそうになる。 ヴァイスを殺め、ティアナを傷つけ、スバルまで――次から次へと自分の大事なものを奪っていく。 こんな気持で戦ってはフェイトに叱られるだろうが、今はこの感情が力になる。全ての融合体を殺し尽くすまで戦える。 ティアナが抜けてからというもの、戦闘はなかなか思うようにいかず、三人全員がストレスを内に抱えていたように思う。 しかし、その中で支えになったのは間違いなく融合体への怒り。少なくとも自分はそう思っていた。 首を振って迷いを振り払う。すぐさまエリオも飛び降り、再び悲鳴を頼りに走り出した。あの融合体を必ず仕留めると暗い決意を誓って。 ※ 恐怖――思考はそれ一色に染まっていた。 逃げて、逃げ続けて、無数の人間とすれ違った。その内、自分を恐れなかった人間は一人もいなかった。誰もがデモニアックと呼び、恐れ戦いた。 ひたすら走り、いつの間にか姿は人間に戻っていた。それでも走り続けた。行く当てなどないというのに。 どれだけ走っても息が切れず、裸足なのに痛みもほとんど感じない。エリオに刺された傷はもう出血が止まっていた。 こうなると、自分は本当に融合体へと変貌してしまったのだと実感する。 ティアナは、エリオに理解を求めようとはしなかった。こんな自分を見られたくないというのもあったが、怖かったというのが一番の理由。 問答無用に自分を狩ろうとするエリオ。恐怖と憎悪の視線を送る人達。そして何より自分自身が怖い。このまま何もかもから逃避したかった。 ポツリと雨粒が顔に当たる。曇天だった空は、いつの間にか泣き出してしまったらしい。ふと頬に触れると、雨でないもので濡れていた。 やがて雨は本降りとなり身体を濡らす。ティアナは途方に暮れた。目が見えるようになったなら、こんな天気も喜んで眺めていられると思っていたのに、今は孤独を助長するだけ。 しかも自分は寝間着姿だ。道行く人が、今度は好奇の視線で見ていることに今更気付いた。 人の流れから弾き出されるように、ティアナは裏路地に逃げ込む。 暗く湿気た壁。ゴミや様々なものが入り混じった異臭が鼻についた。 転がるように、どこかの店の裏口、非常階段の下に座り込む。臭いが気になるが仕方無い。近くて雨が防げて、なるべく死角になる場所と言えば、ここしかなかった。 そういえば、と握り締めていたものに今になって気付く。 一枚の白いカード。相棒であるデバイス、クロスミラージュ。スバルが握っていたのを思わず持ってきてしまっていた。 今、自分の右手には、デモニアックの証である黒い紋章が刻まれている。皮肉にも人でなくなった証と、それから人々を守る為の力だったものが両手にあった。 病院で鏡に映った姿と同じ。いくら半身に魔導師としてのBJの名残を残しても、もう半分はデモニアックそのもの。 どちらでもあるが、どちらでもない。人間には戻れず、かといって悪魔にも堕ちきれず、孤独に怯えている。 「なんで……なんでこんなことになったんだろう」 全てが怖くて堪らなかった。人を守るはずだった自分が無力で守られる立場になり、一転して今は狩られる立場にある。 訳も分からず、人という種から弾き出された戸惑いは、誰にも理解できるはずがない。 エリオの判断は正しい。頭ではわかっていても、同僚に化け物扱いされて追い立てられるのは悲しくて、辛かった。 「仕方無いか……ほんとに化け物だもんね」 これまで特に神の存在を信じたことは無かった。でも今はほんの少し信じてみようと思う。きっと神は自分が疎ましいのだろうと。 両親を失い、兄を失い、夢を、同僚を失った。守ってきた人や共に戦った人々には拒絶され、そしてこの有様。 分かっている。真に呪うべきは己の愚かさであるということも。 だが、言わずにはいられない。この仕打ちは無いだろうと。もう自分には生き場所もない。 誰かに寄りかからず、他人のせいにもしない。起こった事実を受け止め、自分の糧とする。常に前を見て上を目指す。 それがティアナ・ランスターだったはずなのに。 ただ取り戻したかっただけ。単に視力でなく、ねじ曲がったティアナ・ランスターという自分を含めた全てを。無い物ねだりだと知っていた。 でもそれの何が悪い。願いは――そんなに我がままなことなのか。 待機モードのクロスミラージュを回しながらティアナは溜息をついた。昨日、スバルに頼んだ時にはこんなことになるとは思ってもみなかった。 ただ別れを言いたいだけだったのに、何の因果か、今となってはこれだけが自分の唯一の味方である。 話したいと思った。クロスミラージュと別れて一週間と少し、話したいことは山ほどある。 だが、ティアナはぐっと飲み込んで堪えた。今、こんなところで会話していては誰かに気付かれてしまう。ただ傍にいてくれるだけでいい。それだけで少しだけ安心できた。 膝を抱えてひたすら雨が過ぎるのを待っていると、安心したからか急に睡魔が襲ってきた。そういえば、昨日からろくに睡眠をとっていない。 融合体でも眠くなるのか、などとどうでもいいことを考えた。 抗おうとしたが、動くのも面倒だったので、次第に身を任せていった。 目が覚めたらまた暗闇でもいい。それでもいいから、この悪夢が終わってほしいと思いながら。 うたた寝を初めて数分後、ドアが開閉し、誰かが階段を下りてくる音で目を覚ました。即座に、近くのゴミ箱の影に隠れる。 じっと息を殺して通り過ぎるのを待つ。そうすることで余計に緊張が増した。 何故隠れたのだろう、突然の不意打ちで驚いたのだろうか。ただ怖いと思ったら自然と身体が動いていた。 まるで怪我をした野良猫そのもの。暗がりを選んで潜み、惨めにも身体を震わせている。 「おい、こんなところで何してるんだ?」 低く太い男の声がして、ティアナはビクンと身体を跳ねさせた。縮こまり、固く目を瞑って聞こえない振りをする。 しかし見逃してはくれなかった。足音は徐々に近づいてくる。 目を開けると、そこにはイメージ通りの屈強な男が立っていた。 「嫌……来ないで!!」 叫んでも男は聞いてくれず、それどころか手を伸ばしてきた。 一瞬で恐怖が加速する。視界が赤く染まり、またも融合体が視界の端からちらついてきた。耳鳴りが酷く、キーンと甲高い音で全ての音が掻き消されていく。 この男の目的は暴行なのか保護だったのか、どんな理由だろうと関係ない。今のティアナにとっては、近づく者全てが恐怖の対象だった。 ティアナは首を振って最後まで抵抗を試みたが、男が腕を掴むと同時に、男の姿は完全に融合体と化す。その瞬間、声にならない悲鳴が突き上げ、理性の針は振り切れた。 ※ 件の融合体を目撃証言を頼りに追跡するエリオ。それも途中で途切れ、見当もつかなくなってしまう。 全力疾走を歩きに変え、冷静さを取り戻したエリオの頭には幾つも疑問符が浮かぶ。 何故あの融合体は誰も襲わないのか? 負傷しているからなのか? それに越したことがないとはいえ、なんとも不気味だった。 もう一つ、あのスピードなら回避は十分できたはずなのに、何故余計なアクションを挟んだ? スバルに構わなければ反撃までできたのに。 あの病室にはティアナがいなかった。スバルが逃がしたのかもしれない。その際に融合体に攻撃され気絶したと考えれば一応の辻褄は合う。 咆哮からの時間差――殺すにせよ逃げるにせよ時間はあったはず。争った形跡もほとんどない。腑に落ちないことだらけである。 本当にあの融合体はスバルを殺そうとしていたのだろうか。ふと、そんな有り得ない考えが過るが、一度芽吹いた疑惑はそう簡単に消えてくれない。 そうだとして一つ可能性はある。だが、それはエリオにとって最悪の可能性であるが故に、考えることを拒否したかった。 でも、まさか――そんな考えを繰り返していた時、遠くで轟音が響いた。ざわめきは波紋となってエリオの元まで届く。推理を中断し、エリオは再び走り出した。 とある店の裏路地、そこに朱の髪の融合体はいた。4~5メートル先の壁には男が白目を剥いて叩きつけられていた。おそらく殴られただけで死んではいない。 「やっぱりお前は……! やっぱりお前も同じだ!! 人殺しの悪魔!!」 胸に再び怒りが灯る。荒れ狂う感情に任せて怒りの言葉を叩きつけても、融合体は反応しない。しかし、今度は先程とは違い、明らかな殺気が感じられた。 エリオはストラーダを構える。同時に、殺気は急速に膨れ上がり、形を成して襲ってきた。 脇腹、紙一重を拳が掠める。咄嗟に身体を捻らなければ確実に鳩尾に叩きこまれていた。 後ろへ跳躍、距離を取る。融合体はその距離を一跳びで縮め、回し蹴りが頭上を通過。 エリオはまたも距離を取った。 今度も紙一重。同じ紙一重でも、今度は確実な紙一重だった。 エリオには融合体の動きが見えていた。厳密に言えば、視認は追い付いていない。 しかし、その動きは完全な直線。点と線の攻撃しかない。しかも大振りである為、軌道の予測は容易だった。病室で見た動きは気のせいだったのかと思うほど、単調で単純。 融合体は両手を垂らし、腰を落とし身を低く保つ。その髪、その下半身からも四足の獣を連想させるが、はっきり言えば獣にも劣っている。 エリオは目を凝らし、融合体の動きに最大限の注意を払う。動く瞬間さえ分かれば勝てる確信があった。 じりじりと距離を開いて攻撃を誘う。対する融合体はそれを逃げると思ったのか、一気に迫る。それも右腕を大きく振りかぶりながら。 思わず笑いが零れそうな程に単純な打撃。エリオは加速しながら前に踏み出す。お互いが猛スピードで走る為、激突は一瞬だった。 その瞬間、エリオは小さい身体を僅かに逸らした。右の耳を突風が駆け抜ける代わりに、ストラーダは融合体の右脚の大腿を深々と貫いていた。 本来は腹を狙ったつもりだが、激突があまりに速く狙いが定まらなかった。 ストラーダの穂先を半ばまで脚に埋め込んだ融合体は苦悶の叫びを上げ、エリオごと強引にストラーダを引き、投げた。 それも予想内と、エリオは軽々と受け身を取る。猫のように器用に空中で態勢を立て直し、これで止め――と思いきや、融合体は負傷しているにも関わらず、背を向けて走り出した。 「逃がすか!!」 と、追いかける寸前で踏み止まる。融合体に殴られたらしき男を放っておくわけにもいかなかった。おそらく命に関わる程でもないだろうが。 あの傷ではそれほど遠くにはいけない。この男の傷の確認を早々に終わらせてから追うことにした。 ※ 恐怖で狂乱状態に陥っていたティアナは、更なる恐怖と痛みによって冷静さを取り戻しつつあった。しかし、依然として理性は戻っていない。 むしろ狂気はそのままに、狩人を排除することにのみ知恵を絞り、意識を研ぎ澄ませる。ある意味ではより悪化したと言えた。 未だ心は人ではなく、獣のままで言葉と狩りの仕方を思い出しただけに過ぎない。 今のティアナにとって、エリオは"エリオという名の敵"でしかなく、それが自分にとってどんな存在だったかは完全に吹き飛んでいた。 或いは、ここまで堕ちてしまえば思い出さない方が幸いと、心が拒否しているのかもしれない。 単調な攻撃では、どう足掻いてもエリオには勝てないと、ティアナは考えた。せめて武器さえあれば、身体能力に分のある自分が有利になるのだが。 周囲を見回しても武器になりそうなものはなかった。かといって鉄パイプや角材では話にならない。 何か武器はないのか。武器は――あった。手に握りしめたカード、切り札はずっと自らの手の内にあった。 クロスミラージュ――これは自分の武器。使い慣れた武器だ、とそれだけは覚えている。 「あんたで……。あんたがあれば、あいつを殺せる……!」 手放す時、別れを告げたいと思ったほど苦楽を共にした愛器。 十数分前まで唯一の心の拠り所だった相棒。 ティアナの、十二日振りに再会したクロスミラージュへの第一声はそれだった。 変わり果てた主に対し、クロスミラージュは困惑の言葉を返した。 『マスター、相手はライトニング03ですが、本当によろしいのですか?』 「うるさい!! あんたまであたしを裏切るって言うの!?」 ティアナは、クロスミラージュに激昂で返した。たかが武器でさえ意のままにならない。その憤りを一方的にぶつける。 本当は誰もティアナを裏切ってなどいない。それでも、ティアナは誰よりも孤独に打ち震えていた。 『……現在、待機モードでロックされています。解除の許可は出ていません。解除にはスターズ01と――』 「そんなことなら……あたしがあんたを解き放ってあげる」 『マスター!?』 クロスミラージュを握り締める。青い光が瞬くと、クロスミラージュは掌に吸い込まれるように埋もれた。 頭の中に無数の情報が流れ込んでいく。クロスミラージュの構造、その全てがそこにはあった。 ロック、リミッター、出力etc――全てが自由自在。これまでより、そしてこれから何年掛けて共に戦うよりも深く、ティアナはクロスミラージュを理解し、一体となった。 とはいえ、あまりに乱雑に弄り過ぎては修正できない。そもそも専門家でないティアナには知識が不足していた。 その為、今回はロックの解除に留め、融合を解除。ついでにうるさいAIも少し黙らせておく。 「行くわよ、クロスミラージュ」 準備は整ったとばかりに、ティアナはそこでエリオを待ち受ける。 融合によって、デバイスとのシンクロはより高度なものとなった。 しかし、それはクロスミラージュを託したシャーリーやリィンの意思である同調ではなく、支配と呼べるものだった。 今のティアナは獣ではない。狂戦士か或いは戦鬼か――少なくとも人でないことだけは確かだった。 術も叩き込まれた戦技も全てを思い出した。その理念、理由、それを教えてくれた人の顔を除いて。 前へ 次へ 目次へ